俺の見る悪夢
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と上唇がなく黄色っぽい不揃いの歯を見せ、口の中を墨汁が煮詰まったように黒くし、長い黒髪を垂らした逆さまになった血みどろの女性の生首だ。
それを見て、俺は自転車から落ちて気を失った。多分、一瞬の後に意識が回復したのであろう。地べたに仰向けになった俺の眼が捉えたものは……地面を着く位に長く伸びた髪の毛を、左右に激しく振り乱した通常の四倍位に大きさになった女性の顔面だ。血が首の付け根から滴り落ち、鬼のような恐ろしい形相をした逆さの顔。更に、何かに削り取られたかのようにその顔の三分の一がなくなり、脳から脳漿が流れ、一つになった眼と残っている唇と黄色い歯から、多量にどす黒い血が噴出している。一層恐ろしさを増し、グチャグチャに変形している顔全体から、ドスのきいた低い声で、へ、へ、へ、へお前を殺してやる、サッサと死ね、と、何度も何度も喚いている。
ギャー誰か助けてーと、叫ぶ俺の顔を、ガリガリと音を立てて血だらけの尖った歯がかじって来る。俺の顔から生ぬるい血が噴き出し、皮膚の塊が地面に落ち、骨が砕ける嫌な音が周囲にこだました。
何とも言えない恐ろしい体験をした俺は、再び意識を失った。
次に悪夢が俺を襲ったのは、大学四年の時だった。
俺は、ある素敵な女性と恋に陥った。
彼女と出会ったのは、大学の西洋哲学史か、何かの一般教養の教室であった。
俺の隣でボンヤリと講義を聞いていたので、さり気なく小さな声で話しかけた。話の楽しさに、お互いが気に入ったのだろう。いつの間にか付き合っていた。
学部は同じ経済学部であったが、二歳年下だ。端正な顔立ちで、鼻梁が通り吸い込まれそうな大きな瞳をしていて、陶器のような透き通った肌をしている可愛らしい女の子だ。俺はと言えば、誰もが羨む超イケメンだ(?)。
偶然、彼女の住まいは俺と同じ神戸市灘区だったので、帰りは待ち合わせをして同じ電車に乗り、ピーチク、パーチク――お年寄りたちには、そう聞こえた事だろう――楽しくくだらないおしゃべりに花を咲かせていた。
そんな彼女が、俺の夢枕に怪異な姿で現れたのだ。
悪夢の内容はこうだ。
自分の部屋で、パソコン机で「経済学説史」を勉強している時、薄暗いドアー近くで背中を見せている髪の長い女性に気がついた俺は、恐怖で全身に電流が走ったような衝撃を覚えた。
誰も俺の部屋には居ない筈なのに……。女性の容姿は、俺の彼女の後姿そのものだが、どこかは明確に指摘できないものの、妙な違和感が周囲に漂っている。この女性は彼女ではない!
震える声でその女性に向かって、一体お前は誰だ、と大声で叫んだ。すると、その女性は、ゆっくりと、全身をこちらに向けた。
すると、鉄臭いような、塩辛いような独特な血の匂いと、腐臭の混じっている耐えがたい悪臭を、感じた
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