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二度も殺されたタクシー運転手
二度も殺されたタクシー運転手
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しながら、何十分も待っていた。シビレを切らした運転手が家を訪ねると、喪服を着た母親らしき方が、
「うちには一人娘がおりましたが、突然、病で亡くなりまして、今日が、その娘の初七日ですわ。何かございましたの?」
 運転手は、そう聞くが早いかメーターを上げたまま、慌てふためいて営業所に飛んで帰り、経緯を皆に話しながら、唇は蒼白で、ブルブルという音が聞こえるくらい震えていた。
 しかし、霊感に溢れ、若い頃より幾多のミステリー小説を読破してきた私は、この話に詐欺の匂いを嗅ぎとった。
 そこで、そんな経験をした運転手達から、例の女性について様々な細かな情報を聞き出した。同時に、そこから帰ってきたばかりの車両を、隅々まで細かく検分すると、後部座席にアルコール臭がし、マットに微かに残るローヒールの靴跡を見つけだした。
 ただちに、私の推理を所長に報告し、家に帰らず営業所でぐっすりと眠り、当夜十時頃、所長と二人で音を立てないよう細心の注意を払って、門扉を開け、照明に照らされた居間を覗くと、母親らしき女性と三人の娘達が、食卓を囲んでおばかなTVを見ながら、大きな声で笑っているではないか! サッシを激しく何度も叩くと、カーテンを開け、全員が青い顔をして、我々を中に入れた。外は漆黒の闇、中は昼間の明るさだ。そのせいだろう、我々を警察官だと勘違いしたらしい。タクシー運転手の制服を見ると、四人とも、だらしなくあんぐりと口を開けたまま、まるでキツネにだまされたような顔を、私達に向けた。
(だまされていたのは、私達なのに……)。示談が成立し、これまで利用した運賃全てと、多少の迷惑料を上乗せした金額を分割で支払うことになり、母親のたっての願い通り、情け深い所長は警察沙汰にはしなかった。

 その事件から四ヶ月後、二人連れのお客さんを乗せた時だった。
二人とも関西弁を使い、夜中〇時頃にもかかわらず、大きなサングラスをして野球帽を深く被り、口髭まで生やした双子のようなうさんくさい男達だ。
「皆生温泉まで頼むわ」
 普段なら内心大喜びするはずだが、いやな予感が先に立って、首筋を逆撫でされたような悪寒が全身を覆った。膝がかすかに震えているのも無視して、私は勇気を奮って車を発進させた。ほとんどシャッターが閉まった駅前商店街を南北に貫く片側二車線道路を、十分かけて北に向かって走った後、日本海沿いにほぼ東西に延びる国道九号線を、一路東に向かって走った。行き交う車も少なく、信号はほとんど青なのでスピードがだせた。
 しかし、どうして
「こんな時間にここから遠い皆生温泉に向かうのだろう?」
と、不審は募るばかりだった。
 皆生温泉名物の蟹シーズンも終わっているし、第一、今からだと夕食もできないし、名湯にも入れない。しかも、今時の若い人なら免許を持っているに
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