ターン87 鉄砲水と紫毒の記憶
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…ごめんね。全部、思い出した」
聞き取れないほどに小さな声でそう呟いた次の瞬間、手に持ったままのPDFに全くの不意打ちで強烈な力が加わった。咄嗟のことで抵抗することすらできないうちに、ポルターガイストで奪い取った僕のPDFを稲石さんが自分の手の中でクルクルともてあそぶ。
「いない……」
しさん、と続けることはできなかった。突然力を込めて僕のPDFを床に叩き付けた稲石さんが、全力でそれを踏み抜いたのだ。いくら海馬コーポレーション製とはいえ、所詮は通信機械。たった1踏みで液晶も内部の機械も全部まとめて破壊され、素人目に見ただけでも修復不可能なぐらいスクラップにされてしまった。
「え?」
突然の奇行に言葉を失う僕の横を通り過ぎ、ファラオの歩いて行った方への道に立ちふさがるかのように仁王立ちした稲石さんがその右腕を持ち上げる。気が付けば、そこにはデュエルディスクが装着されていた。
「ここは通せない。絶対に」
「何を……」
『マスター、よく見ろ!』
チャクチャルさんの言葉に、息を呑む。これまでどうやって隠していたのか、今やはっきりと見える。稲石さんの全身からは、さっきまで影も形もなかった抑えきれていないどす黒い闇の瘴気が漂っていた。
「稲石さん、それ……」
『やめておけ、マスター。説得は考えるだけ時間の無駄だ、恐らくはミスターTだな。先回りして……洗脳か?表層意識だけは普段通りに取り繕い、何かあらかじめ設定しておいたきっかけにより効果を生じる。一目見た限りでは本人そのものであるがゆえに怪しまれずに送り込むことができ、なおかつ内部ではこちらの手足として動かせる。私も昔、好んで使った手だ。先ほどの会話の中にトリガーが、例えば賢者の石、やダークネス、という単語に反応して解放されるよう仕込んであったのだろう』
「稲石さんまで、そんな……!?」
『割とマスターは、向こうからは敵視されてたからな。外堀を埋めに来ても驚きはしないが。ただ、以前オネスト事件の際にここに来たときにはおかしなところはなかったからな。洗脳されたのはかなり最近、まだ浅い段階だと見ていいだろう』
「ってことは?」
『カードだ。デュエリストに対しての最も手軽な洗脳はカードを媒体としてのものだから、そのカードを正面から攻略すれば流れを断ち切ることも可能なはずだ』
きっぱりと言い切るチャクチャルさん、そして目の前で闇のオーラに包まれる稲石さん。ふうっと息を吐き、水妖式デュエルディスクを腕輪状態からデュエルモードへと変形させる。なんだか無性におかしくなって、ついつい笑ってしまう。
「なんだ……ふふっ」
『どうした、マスター?』
「いやね、チャクチャルさん。どれだけややこしい話になっても、結局腕ずく力づくなんだなあって思ったら、ね。最
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