ターン87 鉄砲水と紫毒の記憶
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わず門を乗り越えていつも通り伸び放題に伸びた庭の雑草を掻き分けて、その先の巨大な扉をぐいぐいと開ける。相変わらずのほこりまみれの室内の空気はしんと静まり返っていて、ついこの間ダークネス吹雪さんと戦ったあの時の熱気が嘘のようだ。
「稲石さんってば、ちょっと出てきてよー」
返事はない。視界に入る中で動くものといえば、辛うじて見える窓の外の曇り空に飛ぶ1羽の鳥の影だけだ。何かがおかしい。あの人はここの地縛霊だから、この寮の外に出ることはできないはず……と、そこまで考えて、あることを思い出した。そもそも、あの人は誰なんだろう。稲石という名前も本名かどうかは怪しいものだし、地縛霊だという情報ひとつにしてもあの人がそう自称しているだけだ。これまで何度も浮かんでは来たが、そのたびに後で本人に聞こうこれが終わったらあの人に直接聞きに行こうとひたすら後回しにして塗りつぶしてきた疑問。
だがそれが形になる前に、思考が強引に中断された。一体どこから出てきたのか、背後から肩を突然人間の手で叩かれたのだ。その感触よりも、制服越しでも体に伝わるその冷たさにぞっとしながら振り返る。
「やあ、どうしたんだい?」
「うわっ!?な、なんだ稲石さん……」
「なんだとはご挨拶だね、まったく。それで?」
多少ムッとした様子の稲石さんに、ぎこちなく笑いかける。その手は離されたというのに、いまだにその感触が肩に残っている。
「……それが、僕にもよくわからないのよ。とにかくここに行ってろって言われただけで。だからまあ、とにかく聞いてみようと思ってさ」
何が何だか、という顔でこちらを見つめてくる稲石さん。その感想ももっともで、自分の言葉ではあるものの我ながら下手な説明だ、と笑いたくなる。聞かされる方はいい迷惑だろうが、僕だってわからない物はわからない。そもそも、稲石さんをこの話に巻き込めとは三沢には言われていない。ただこの彼がこの廃寮を指定してきた以上現地の住人である稲石さんの助けがあったほうが何かとスムーズに行くだろうし、世界どころか次元規模で起きているダークネスの侵攻は稲石さんにとっても他人事ではないはずだ。
とにかくとPDFを引っ張り出し、稲石さんの視線を感じながら三沢に通話を繋ぐ。ありがたいことに、この島の内部は例え火山にいようが森の奥地にいようが、この廃寮内でさえ決して圏外にはならない。海馬コーポレーションの開発した、世界中どこにいてもデュエルが楽しめるデュエルディスクの中央コンピューター接続技術を転用した強力通信技術のおかげだ。三沢もこちらからの連絡を待っていたらしく、ワンコールすら待たされることなくすぐに通話が繋がった。
「あ、三沢?こっちは今寮に入ったとこだけど」
『そうか。そっちは無事だったみたいだな』
「そっちは……?」
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