サメに手足を食いちぎられた恐怖の魚釣り
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味である。
太平洋側と異なり山陰地方では、川が南から北へ流れるので、関西からきた私は、最初戸惑った。
川は真っ暗闇なので、遠くからでも見えるように、単三電池一個を入れた大きな電気浮を使用する。両手を広げた長さである約一ヒロのテグスに、鯛バリ十三号の大きな針をつける。スズキは、海岸近くや河川に生息する大型肉食魚だから、かまれると痛い生きの良いアオイソメを十匹ぐらい、一本のハリに房がけにして釣るのだ。
五.四メートルの投げ竿で、川の中央を狙って力一杯遠投し、流れに赤々と漂う自分が投げた電気浮だけに注意を集中する。電気浮が二,三度沈めば思いっきり合わせて、大きなリールを精一杯巻き手元に寄せてから、五・四メーターあるカーボン製伸縮自在のタモですくい上げるのだ。
漆黒に近い川面に、何百と漂う電気浮きの群れは、川に蛍が飛び交うような幻想を抱かせる。
川に右から左への流れがあるため、電気浮きが河口に近づく。自分の左側に誰もいなくなると、何百人いるか分からない釣り人の後ろを、道具と竿を持ち、一番上流の右側に誰もいない場所まで、川上に向かって移動する。同じやり方をして、浮きの流れに従ってカニ歩きをして、河口へとくるとまた同じ行動をする。何度も、繰り返し、繰り返し……。
かなりのエネルギーを使用する釣りではあったが、無情にも、私も例の相棒、谷川君さえ九回も通ったにもかかわらず、スズキの顔をとうとう拝めなかった。
我々が、そこに九回目に行った時だった。
数十人上流にいる人々が、ガヤ、ガヤ、ガヤ、ガヤ……と大声をはり上げて騒いでいる。騒然が周囲を包んでいて、数人が見知らぬ家に入って電話をかけている。谷川君と共に、その騒いでいる集団の端に行くと、年配の人が、
「君たちはまだ若そうだけん、見ない方が……」
そういわれると好奇心が益々肥大し、矢も楯もたまらず、更に近寄った。
多くの竿で引き上げられていたのは……。
なんと、ブヨブヨに膨らんで、悪臭を放っている水死体だった。頭の髪の毛が抜け落ち、頭蓋骨が一部だけ露出し、皮膚に水苔や藻が付き、しかも、それらが繁殖した死体だ。ボロボロの衣服から類推すると、どうも男性らしい。
多分半年ほど前だったと思うが、法医学に関係した本をていねいに読んだ。そこに書かれていた水死に関する記述が、私の脳に浮かんできたのだ。
――水死に至る以前の行為は、魚釣り・魚捕りが最も多い。
死体は、顔から腐敗が始まり、死後三日ほどで角膜が濁り、死後二週間ほどで手足の皮膚が簡単に剥がれ落ちる。やがて、腐敗ガスで全身が膨らみ、死後三週間ぐらい経過すれば、頭の髪の毛が自然に抜け落ちる。更に、死後一ヶ月すれば頭蓋骨が一部露出し、皮膚に水苔や藻がついて、それらが繁殖したりする。死後一ヶ月経過すると、死蝋化≪しろうか≫つまり身体
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