呪われた玉手箱
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られるような気がしてきた。
早速、タクシーで病院に着くと、担当の辻本刑事に案内され、地下にある寒々とした霊安室で、身体全体に白い布を掛けられた妻に、対面とする事になった。
(普通なら顔だけ白い布を掛けるのに!)
と、疑問に思いながらも薄暗い中で、なぜかいつものまり子でない雰囲気を感じながらも、遺体に近づいた。突然、脳裏に老婆の映像浮かんだ。霊感、予知?
シワだらけの手に例の手鏡をきつく握りしめた右手が、白い布からはみ出していた。いやーな予感に襲われながら、顔に掛けられた白い布を、思いきって一気にめくると、
「ギヤァァァァァァァァァァァァァァァァー……」
と大声で叫んだのは、私ではなく辻本刑事であった。
友人達も羨んだ、少しふっくらし色白で愛らしい、女神ビーナスが人に化身すれば、ギリシャ風の彫りが深い美さの極致とも断言し得るような、普段見慣れた妻ではなかった。
妻の顔は、老婆のようにシワだらけだった。かもし出す雰囲気は、まるで、元禄時代に起こったとされる、夫である伊右衛門≪いえもん≫に惨殺され、幽霊となって復讐を果たした四谷怪談のお岩さんのようだ。自慢の黒髪はほとんど抜け落ち、顔は赤黒い大きな腫れに覆われていた。窪んだ眼には、赤と白の入り混じった小さな魚眼のような目玉が、左右反対の方向を睨んでいる。鼻には、ゾロゾロ……とフナ虫が出入りし、耳の近くまで、黒くなった唇が裂けていた。紫色に変色した歯茎に、先が尖った四本の茶色い歯を見た時、溢れていた涙も凍る寒気と驚愕≪きょうがく≫に、私は、ヘナヘナとその場に座り込んでしまった。他人から見れば、私の顔は絶望感で醜く歪められていただろう。
五話
大きなショックを抱えながらも、両方の両親始め、親戚、会社に連絡し、翌日には近くの立派な葬儀会館で、無事お通夜式を終えた。翌日の午前十一時には告別式を営み、何事も無く無事に終える事が出来た。ただし、色々と理由を付けて、まり子の顔と身体を、絶対に見せないように苦慮はしたが……。
喪主の私が、告別式で列席者に挨拶をした後、霊柩車の後から両親、親戚を乗せた葬儀社のマイクロバスで、斎場へと向かった。朝から、まり子の死を悲しみ涙するかのような雨が、しと、しと……暗く沈鬱な空より落下し続けていた。
斎場専属のお坊さんの読経を十五分程聞いた後、我々が数珠片手に拝んでいる中、スルスルと釜に棺桶が入り、ガスに点火されて、強い炎に包まれたであろう。
「熱いわ、助けてー、助けてー、助けてー助けてー、助けてー、助けてー、助けてー……」
そんな妻の今にも殺されるような、苦悶をはらんだ絶叫を聞いたのは……私だけだろうか?
完全に白い骨になってしまうまでの約二時間、豪華な会席料理と瓶ビールとに、皆は箸とグラスをせわしなく口に運んでいたが、私
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