呪われた玉手箱
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の言う通り、四日後には、手鏡に名前を叫んだ九人全員が、心疾患、脳血管疾患、肺炎、交通事故、自殺、喧嘩……などの様々な原因で、あの世へ旅立った。
私は、彼等が亡くなった知らせを耳にした時、膝が小刻みに震えるのを、なかなか止められなかった。バックヤードの椅子に、まるで根が生えたようになって、長時間座り込んでしまったのだ。私の様子見た課員達は、話したい事も話さず、一様に見てはいけないものを見てしまった、という顔をして急いで立ち去った。
(まさか……本当に死んでしまうなんて!)
自責の念と、自分が起こしたであろう、呪の具現化に対する恐怖に満ちた醜い塊に、押し潰されそうになった。入社以来、初めて専用の用紙に適当な理由を記入し、店長に許可を頂き昼前に早退し、一目散に家に帰った。
チヤイムを何度も鳴らして、妻の名を繰り返し呼んだが、ふと車がないことに気づき、多分買い物に出かけたに違いない思い、いつも持っている鍵でドアーを開け家の中へ入った。
その途端、卓上電話の軽やかな呼び出し音が鳴った。私は、いつもの癖で、ハイハイと言いながら、子機をなぜか汗ばんでいる手で取った。電話の相手は、かなりの早口で、
「自分は県警の捜査一課警部補の上田と申しますが、旦那様でいらっしゃいますか?」
という問いに、ハイと震える声で答えた。すると、彼は、低い声で言いにくそうに、しかも、馬鹿ていねいに、一言、一言かみしめるように話し出した。
「実は……奥様が運転していた車が……賀露港の岸壁から海中へダイブされました。電話で複数の目撃者より、119番や110番に通報がありましたので、パトカーと救急車、クレーン車で現場に行きました。ですが、海底より引き上げた車の中の奥様は……既に心肺停止状態でした。その場で応急処置をし、急いで救急病院に運びICUで延命処置を続けましたが、十四時十四分、残念ながら……お亡くなりになりました。ダッシュボードのポーチにありました免許証から、お名前や住所……などが判明しましたので、お宅様に連絡させて頂きました」
ていねいな説明を、まるで他人事のようにボンヤリと聞きながら、摂氏零下四十度以下にまで冷凍出来る棺桶型冷凍庫のマグロストッカーに全身入れられたようだった。――歯がガチガチと鳴り続け、その直後、身内よりブルブルと音を発して、身体全体が震え出し、心も体も、暗い闇に引きずり込まれたような感覚が、私を襲った――
本来なら、担当刑事が連絡してくるのだが、たまたま同じ海岸で釣りをして気安くなり、妻を伴って、お宅を何度か訪れた県警警視正である横田氏の計らいで、捜査を指揮する担当警部補から直接連絡が入ったに違いない。
『人を呪わば穴二つ』
と、言う格言が脳裏に浮かび、それが思考の全てを支配した。と、同時に、ハイチのブーズー教の超自然的な魔力を、信じ
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