呪われた玉手箱
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ーナ予感を、私は感じたのだ。この時、山道の両側には木が高く茂り、案の定、私は無数の幽霊を見た。それぞれの木々に、白い紐で縊死しょうとしている人々が、苦しくて両手両足をバタ、バタ……させ、皆が血走った目でこちらを睨み、早くも乾き始めた鼻水は、少し強い夜風にあおられ綿のようにあちこち飛んでいた。
(ははーん、この道路は、霊に占領されているな!)
せめて、霊感が一切ない妻を怖がらせないよう、同時に気を紛らせようとして能天気なCDのボリームを少しだけ上げた。ところが、その事が、彼等にはお気に召さなかったのだろうか? 顔が醜く歪められ、二本の長い黄色い歯がある口を、顔以上に開け、まるで絶滅した「ニホンオオカミ」が、昔、遠吠えしたであろう鳴き声を響かせ、静まり返った夜の闇を引き裂いた。
(ちなみに、ニホンオオカミは、明治三十八年に捕獲された若いオスが、確実な最後の生息情報である)
遠吠えのような、お互いの話し声すら聞こえない工場地帯でおきる騒音が、辺り一面を支配した。首に白い紐をなびかせながら、化け物(悪霊)達が、ガリ、ガリ……と愛車をメクラメッポウかじり出した。
なのに、居眠りから目覚めた妻は、音楽に合わせて敢えて(?)下手くそに歌っている。霊感がないのは、この世では幸せだ。妻を羨む自分が、惨めになる。悪霊退散の不動明王の真言を心の中で九回唱えた。
「ノウマク サンマンダ バザラダン カン」……。
すると、蜘蛛の子を散らすようにして、全ての化け物達が、空中を飛んで逃げて行った。
この真言は、一般には、不動真言の名で知られる、小咒≪しょうしゅ≫、一字咒≪いちじしゅ≫とも呼ばれる。
ブレーキをかけ、外に出て車載しているハロゲンランプで確認したが、愛車の黒いベンツには、何の傷もない。妻は歌うのを止めて、車外に出て訳の分からない体操をしながら、私に尋ねた。
「何かあったの。汗中、顔だらけよ、ああ違った、顔中にいっぱいの汗よ。一体どうしたの! 顔色も良くないし……ここで悪霊に出会ったのね! もういない? だったら、車内でコーヒーでも、飲みましょう」
「もういないから、安心しろよ。それより、こんな場所に霊道が存在するとはなぁー。縊死した霊のパーティーでもあったのかなぁ? 解ったよ、お前が持参金と新車の黒いベンツを持って来たのが、原因だよ。奴らは、それを妬んだに違いない、と思う。しかも、闇に溶け込んだベンツの黒さが奴らを招いたのだろう!」
その後は何の障害にも遭遇せずに、目的の和歌山県南部に到着した。既に夜九時を過ぎているので、観光は翌日の楽しみにして、適当に食べ物と箱に入った日本酒を調達し、ラブホに入った。妙な旅館より安くて、内装が豪華であるからだ。
三話
あくる年の節分の日だった。
朝から降り続く小雨が止まないので、休み
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