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呪われた玉手箱
呪われた玉手箱
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き、真っ青な顔で耳をふさいだ妻は、私にピッタリと引っ付いて来た。
 翌朝、出勤しょうと玄関の扉を押し開けようとした。が、一センチすら開かず、一階の和室のガラス戸を開けると、眼が開けられない位まぶしい白い雪が、八十センチほど積っていた。
 仕方なく色気ない黒の長靴を履き、一階にある窓から出て、純白の雪と格闘しながら駅に着いた。ところが、いつもは二,三分遅れて到着するのに、こんなに雪の降っている日にもかかわらず、ピッタリ時刻通りガタゴトと喚きながら、列車が駅に入って来た。
 晴れた日には、いつも二〜三分遅れるのに、大雪の日は必ずと言って良いほど、定刻に到着した。そうなるのは、一体なぜだろう? いくら考えても答えを見出せなかった。
 更に、雪の日には、信じられないような出来事が、必ず私の身に降りかかった。それも、楽しくて胸がわくわくするような出来事とは、真逆だった。
 大雪の日に列車に乗っていると、何か得体の知れないおぞましい複数の突き刺さるような【視線】を、常に感じて身震いが止まらなかった。胃から未消化の朝の食事がせりあがり、嘔吐感に悩まされた。だが、鳥取駅に到着した刹那、まるで嘘のようにその【視線】は消滅したのだ。
 幼い頃より他人に比べて、霊感は少しだけ強い方だったから、私には彼等の姿が見えたのだろうか? 恐らくそうであろう! 気味悪い霊達だったから、その日は一日中、仕事に集中出来なかった。会社のトイレの鏡に写った顔には目の下に隈が出来、憔悴しきった自分自身が見えた。   
 ――明治三十五年一月に日本陸軍第八師団の歩兵第五連隊が、八甲田山で冬季に雪中行軍の訓練中に遭難した。雪が積もっている日には、列車に、いつも、その事故(事件?)の参加者達が、悲しそうな表情をして座っていた。凍傷でただれた顔のみならず、軍服までもが凍った雪に覆われている全員が、生気のない目で、恨めしそうにジィーと私を見つめていたのだ。
 それだけなら、怖い思いをするだけだから、まあ良いとしょう。だが、彼等は、死への恐怖を、私に押し付けて来たのだ。真っ赤な血に染まった口を耳まで開け、緩慢な動きで私に向かってかじり付こうとして、襲ってくるのだ。私は、ハアハア……あえぎながら、二両しかない列車を逃げ惑った。ところが、二〜三分経過すると、まるで今まで何事も起きていなかったように、人々が座っており、吊革に片手をあずけて新聞、雑誌等を読んでいる人々がいる、平常な世界に戻るのだった――
 一体、何だったのだろうか? 幾ら頭をひねって考えても、原因は霊界の闇の中にあって、解明なんて無駄なあがきに違いない。
(八甲田山での遭難の詳細は、生存者によって異なる。戦争に向けて民間人の軍部への批判を逸らすため、軍部が数少ない生存者に間違った事実を述べるように強制をした。更に、様々な情報操作をして
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