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呪われた玉手箱
呪われた玉手箱
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回っているのだ。多分、針をくわえた魚が、何らかの拍子に木箱に入ってしまったのだろうと思った。真冬なのに、全身から汗を噴出しながら、防波堤までやっとの思いで上げた。
 仔細に見ると、元は美しかったであろうと思われる漆の朱塗りが、年月の経過で、その輝きを奪われ、今は剥げて傷だらけになった単なる木箱だった。とにかく、早く魚を出そうとして、木箱の蓋をカッターでこじ開けた。
 すると、霧かあるいは霞のようものが、モワーとわずかに出ただけだった。肝心の期待していた大物の魚はいなかった。中には、曇って古ぼけた銅製の手鏡が、さも恥ずかしそうに自らカタカタ……と震えていた。
 こわごわ、皮手袋を使って手鏡を仔細に観察したが、微かに震えているだけで、何の変哲もない手鏡である。鏡の中を覗き込むと、寒そうな自分の顔が、不明瞭に映っているだけだ。
 もう釣れないと断念し、竿を竿ケースにしまい、辺りに散らかった釣り道具を片付けてデイバッグに入れ、おにぎりを包んでいたアルミホイルやコーヒー缶……などのゴミをスーパーのビニール袋に突っ込み、奇妙な手鏡が入った木箱と一緒に家に持って帰った。
 妻に詳しく事情を説明すると、最初は気味悪がったが、家に置くのを渋々ながら承諾した。
 私は、手鏡を入れた木箱を、手頃なダンボール箱に大事に納め、普段使用していない二階にある六畳の和室の押し入れにしまった。何だかいわく因縁がありそうで、不吉な予感を感じさせる箱であり、粗末に取り扱うと災厄が身に振りかかりそうだったからだ。
 会社を背負っているような気になって仕事をこなし、鳥取駅発の最終午後十一時三十九分の列車で帰宅する日常生活に戻った。少しの時間、等級試験に関する勉強をしてから、深夜のTVニュースを見ながら、食事と軽く晩酌をして寝る生活だ。
 だから、手鏡の入った木箱は、極自然に忘れ去った。


 二話

 いつもの生活パターンで二週間程過ごしていた日。朝からどんよりとした黒い雲が、大空で幅を利かせている休みの日だった。
 震える鏡が入った木箱が、何だか妙に心に引っ掛かり、妻を誘って二階の押し入れから取り出し、二人で手にとって、長い間、様々な角度から仔細に観察をしたが、何ら新しい発見(?)はなかった。私の単なる杞憂だったのだろうか? 
 その年は暖冬気味であった。
 ようやく師走も中頃になって、雪おこしの雷が二,三度耳をつんざいたかと思うと、漆黒の雲に占拠された空から、しんしんと真っ白な牡丹雪が落ちて来た。瀬戸内海に近い実家では、こんな機会には滅多に巡り合わないから、嬉しくて外に出て空を仰いでいた私の顔に、次々と雪が降り注いだが、顔の熱気で直ぐに溶けてしまった。
 休みの日、一階にある和室八畳間で、のんびりと横になってTVニュースを見ていた時、天地を揺るがすような雷鳴が轟
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