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竜宮城に行けた男
竜宮城に行けた男
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宇宙全体からすれば、数十年程度は無視できる時間単位であろう、と考えた。つまり、数十年単位で過去に遡及すれば安全だろう。そのようにして、徐々に目的の時代に近付くのがBESTであり、いきなり彼、浦島太郎の時代に到達するのは危険極まりないと判断した。したがって、手始めに四十年〜五十年前の世界に時間遡行することにしたのだ。だが、残念ながら、細かな時代と場所を特定する方策はまだ体得できていなかった。とはいえ、大まかな西暦と場所は分かる。それを可能にしたのは、何年も費やし精魂込めて作った薄いダイバーウォッチに近い形状の複雑なT・P(時・場所の略)装置である。スマホ、パソコン等にあるチップ、基板を使って苦心して作ったのだ。

 自分がもともと存在していない空間に、自分の体積分が突如出現した場合には、外爆発がおきるだろう。だから、体積、質量を持たない状態で現れる必要がある。つまり、裸になりT・P装置だけを腕にして過去にタイムトラベルするのが、一番賢明な方法だろう。だから、私は裸になり、過去に向かってタイムトラベルを始めたのだ。とは言え、私には自分の肉体は見えるのだが、ほとんど透明な自分自身を見るのは気持ちの良いものじゃない。体積も質量がない状態であり、気温の変化、風の動きも感じられないのは、全く変な気分だ。透明人間なんてなるものではない。素っ裸で半透明になった自分を見るのは、何とも表現できないほど複雑な気分だ。今は、吐き気を催すようなイヤーナ気分だが、時間が慣れを運んでくるだろう。それを期待するしかない。
 最初に質量がない状態で半実体化した所は、国鉄(現在のJR)兵庫駅の上空約五十メートルの空間である。今しも機関車が、漆黒の煙を風になびかせながら、西にノロノロと向かおうとしているところだ。次は恐らく須磨≪すま≫に停車するのであろう。
 この時代の世界では、私自身アウトサイダーである。いや、異邦人ですらない。この時代に存在を許されていないのだから……。この時代に一切関わりを持てない。つまり、この時代にいささかも干渉できない存在であることを、私は十分認識している積りだ。だが、薄茶けたホームで次にくるだろう、石炭を燃料にして水を蒸気にさせ動力を得るSLか、木の床が油臭い省線電車(今の各駅停車する普通電車)を待つ人々に、思わず大声で自分の存在を知らせたい衝動に駆られた。だがもし、そうしても誰も気付かないことは、火を見るより明らかではある。が、小さな叫び声をあげた私は、奇妙なノスタルジーに惑わされている証拠なのかも知れない。昭和三十年〜四十年頃のTV映像か書物でしか知らない世界なのに……。
 ちなみに、英国産業革命時代、ジョージ・スチーブンソンが最初に蒸気機関車を制作したと勘違いしている人が実に多い。彼は、公共鉄道で走行する最初の「ロコモーション号」を更に「ロケット号」で
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