竜宮城に行けた男
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達が、私の視覚を占領したのだ。しかも、全員が美しく日焼けをしている。私は見事に整列した大勢の若い美女達に、盛大な拍手を持って迎えられたのだった。私は天に舞い上がるような気分になった。
ギリシャ神話に登場する狩猟の女神であるアルテミスを信仰し、女性達だけで生活するアマゾネスの国にきたような気がした。馬を飼い慣らして自在に操り、弓術を得意とする女性のみで構成された狩猟民族に間違いないと思えたのだ。南アメリカのアマゾン川流域に、女性だけの部族がいたという伝説があることから、アマゾネスと名付けられた。
私はドンドンと高鳴る心臓を感じながら、恐る恐る美女達に近づくと、弓矢を持ったとりわけ美しい女性が馬から降りて私の右手に口づけをした。それが合図であったのだろうか? 何千、何万もいる女性達の口から、聞いたこともない叫びとも雄叫びとも区別できない、多分、古代ギリシャ語の合唱が、長い間、響き渡ったのだ。雰囲気から察すると私は盛大に歓迎されているようだ。これから先も、この素晴らしい国に長く滞在できそうな気がする。
私の手に口づけをした女性は、この国を治める女王でアフロヂーテと名乗った。どこかで聞いた名だった。ギリシャ神話に出てくる神の名を、「ア」から順に頭の中で言ってみたのだ。
アイテール、アスクレーピオス、アプロディーテー、アポローン、アルテミス、アレース、アテーナー、ウーラノス、エーオース、エロース、エレボス、オネイロス……などの名を……そうか、アプロディーテーをもじった名だ。
ともあれ、早速、女王に手を引かれて鮮やかな朱色に塗られた高い門の中へと案内され、カラフルなペルシャ絨毯≪じゅうたん≫を敷いている大広間にやってきた。一段と高い五十帖ほどある場所には、虎の皮を一面に敷き詰めていた。夜光貝やアワビの真珠質部分を砥石≪といし≫で磨き、貝の部分が青や白に美しく光る螺鈿細工≪らでんざいく≫のテーブルには……様々な種類の酒、調理されたばかりで湯気がうっすら立ち上っている牛肉、美味しそうな魚類や色とりどりの果物が綺麗に盛り付けられている。そこの中央には、一頭の雄ライオンの皮で覆われた豪華な肘掛椅子が置かれている。
この島に案内してくれた亀は流暢な日本語を話したので、てっきり日本語が通じるだろうと思った。だが、なぜだか現代英語だけしか通じないのである。私が知っている古代ギリシャ語を話すが全く通じないのである。この島は英語圏らしい。なぜ、日本でこのような島が存在するのだろう? こんな島があるのならば、国土地理院が日本地図に載せているだろうし、したがって日本人なら誰でも知っているだろうに……。黙ってしばらくの間、それらの理由について脳をフルに回転させて考えたが結論は出ないので、詮索するのはきっぱりとあきらめた。人間、あきらめも肝心な場合だってあるのだ。
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