竜宮城に行けた男
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ず憐憫≪れんびん≫の情に駆られた。果たして、思念だけの私が治療できるかどうか全く自信はなかったが、念を集中し超能力を使ってパワーを送ると、徐々に傷はいえて雌亀は安心した様子で海に帰って行ったのである。私が行った行動には一片の打算すらなかった。純粋に雌亀を助けたかっただけである。
その後一月ほど、そこの砂浜にいて竹や棒切れで亀をいじめる子供達が現れないか、首を長くして待っていた。しかし、残念ながら、そのような子供達は現れなかった。私は、肩を落として溜息ばかりついていた。
しかし、突然、誰もいない黄昏≪たそがれ≫の浜から、薄茶色をした亀が私の前までやってきて透き通る声で、脳に直接話しかけてきたのだ。
「どうぞ私の後からいらしてくださいませ。女王様が、ぜひともお礼をしたく申されておりますので!」
理由は全く分からないが、この時、私は半透明でなく実存していたらしい。私が実在すれば歴史に干渉することになって、未来を変えてしまうことになるはずだ。だが、竜宮城に到達さえできれば未来が変わってしまうのは、私にはもうどうでも良かったのだ。
私は、何の疑いもなくまるで軽い催眠術にかけられたような気分になり、海面が二つに割れた道を大量の汗を吹き出させ、ハアハア言いながら二、三十キロメートルほど亀の後を追いかけて走ったのだ。亀がこんなにも早いスピードで走るのは、今の今までとても想像できなかった。
前方に緑の木々に覆われた島らしきものが、全身汗にまみれた私の視界にぼんやりと入ってきたのだ。これはエジプトで奴隷として、しいたげられていたユダヤ人をモーセが率いて脱出し、後からエジプト軍が追いかけてくる。その時、奇跡が起こり二つに海が割れて、モーセとその一行は向こう岸へ着くが、追ってきた軍隊は海がもとに戻って呑み込まれる「出エジプト記」と、海が二つに割れるシーンとが酷似している。
神がシナイ山の山上に現れてモーセに十戒を受ける。私はヘブライ人と契約を交わしたモーセになったような気さえした。
モーセに示された十戒とは、
1. 主が唯一の神であること
2. 偶像を作ってはならないこと
3. 神の名を徒らに取り上げてはならないこと
4. 安息日を守ること
5. 父母を敬うこと
6. 殺人をしてはいけないこと
7. 姦淫≪かんいん≫をしてはいけないこと
8. 盗んではいけないこと
9. 偽証してはいけないこと
10. 隣人の家をむさぼってはいけないこと
である。
(沖縄に伝わる話に少しだけ、似ているなあ!)
そう思いつつ島の開けた場所に着くと、琉球王朝時代に存在したような赤を多用した、派手な竜宮城らしいレンガ造りの建物に案内された。中に入ると、わずかばかりの革製胸当てをしてチョービキニで腰付近を隠している女性
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