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竜宮城に行けた男
竜宮城に行けた男
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。だが、いかにして浦島太郎に会い彼に同化して、竜宮城に行くかが最大の課題である。それは、私に課せられた頭脳の試練でもある。
 当時、海亀が多く産卵に集まる丹後の細かな場所は、当然諸資料を解読し頭脳に刻み込んではいる。ここでもう一度、伝説のおさらいをすれば何らかのヒントを見つけることが、可能かもしれないと考えた。そこで、雑念を払拭して純粋な瞑想に入ることにしたのだ。
 御伽草子≪おとぎぞうし≫以降、中世の伝説では漁師をして両親を養っていた二十四,五歳の浦島太郎が、大きな亀を釣り上げた。彼は「亀は万年生きるのに、この恩を忘れじ」と言って、亀を海に逃がしてやる。すると、何日かの後に女人が舟で彼を迎えにきて、姫が礼をしたい旨を伝え、ともに宮殿に行きここで三年にわたり豪華極まりない歓待を受ける。
 でも、両親のことが心配になり「故郷へ帰りたいと」と言うと、乙姫様からお土産にと玉手箱をいただき、もとの浜に返してもらった。だが、村は既に消滅しており近くをさすらった彼が目にしたもの、それは両親と彼自身の墓であった。大いに落胆した彼は「開けてはいけませぬ」と何度も言われた玉手箱を開けると、美しい鶴に変身し大空高く飛び去るのだった。
 この時代にアクアラングの装備があるはずもない。まして、太郎が魚類のようにエラ呼吸を会得できたとは、とても信じ難い。この伝説を信じるなら、鎌倉幕府の世から室町、戦国を経て安土桃山時代に至る長い歴史における一時点を、特定せねばならぬという超難題に突き当たってしまうのだ。
 私は熟考を重ねた末に一つの結論に達した。それは私が考え抜いた自身勝手で、はかない一縷≪いちる≫の希望だろう。そうかもしれないが、行動する価値は十分あるはずだと考えたのだ。
 つまり、比較的平穏な室町時代の浜辺で、浦島太郎と同じような慈悲溢れる行いを亀にするのはどうであろうか? 半透明な私を果たして亀の脳が認識できるのかは、大きな賭けではあるだろうが……。だが、一か八か試みることにしたのだ。
 丹後地方の浜風と砂から家を守る役目をする松林。それがある民家の近くにかくれた。辺りには誰の姿も見当たらない。砂浜に乗り上げてある小舟の陰に移動した。その場所で私は眼を皿のようにして亀を探した。その日は、夕闇が月に照らされて遠くまで見渡せた。時間が経過して、代わって朝日が真っ青な地平線に顔をだすまで粘ったが、徒労に終わった。
 だが、私は諦めることなく、同じ行動を二ヶ月ほども辛抱したある満月の夜だった。
 私は産卵の大仕事で砂浜に上陸してきた亀の一群を見つけた。さり気なく近づくと、百個程産卵した後に砂をけって、もと通りの状態にしようとして、もがき苦しんでいる雌亀を見つけた。
 近寄ってよく見ると、後ろ足から多量の鮮血を滴らせているのだ。かなり深い傷を負っているらしい。私は思わ
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