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竜宮城に行けた男
竜宮城に行けた男
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に付けて、刀を自由自在に使いこなせる侍を見たくはなかった。戦≪いくさ≫に加わった大勢の人々は、普段、農業にたずさわっているのだ。そういう人々に、視点を置いてみたかったのである。そこで私は、ある一人の村人に密着した。手柄を立てれば今の生活も必ずや良くなるだろうという甘い考えで、家法の甲冑≪かっちゅう≫を家族に協力してもらって着用し、勇ましい武将に変身した気持ちになって、戦に加わったようだ。だが、敵味方入り混じった殺戮≪さつりく≫の現場を体感すると、彼は歯の根も合わないほどに恐ろしくなったのだろう。敵軍に背を向けて戦場から慌てて逃げようとした。
 その刹那、背中に熱い激痛が走ったらしく胸に装着していたが、ほとんど錆びてもろくなった鎧≪よろい≫を突き抜けて、先が尖って血がベットリと付いた青竹をカーと見開いた目で見た。彼はガクッと前向きに倒れ様に、今まで生きてきた中でも楽しいことばかりが、走馬灯の如くつむった瞼に映ったようだ。まるで、東大寺にある木像の弥勒如来像≪みろくにょらいぞう≫のように柔和で優しい笑顔でほほえみ、無様にも泥水に土下座をしている恰好で絶命していたのだ。
 残酷だ、残酷過ぎる。
 戦にどんな大義名分があろうとも、私は反対の立場をこれから先も堅持して行きたい、と改めて意識させる悲しいできごとであった。

 次に、タイムトラベルしたのは戦国時代の千五百八十二年七月一日だ。
 日本史上においては最重要事件の一つである。天下人≪てんかびと≫に最も近かった織田信長を家臣であった明智光秀が兵を一万三千率いて襲い信長を自刃させた京都山城国「本能寺の変」だ。真っ赤に燃え上がったお寺には、半実体の身であっても暑くて近づけないが、私のいる上空からでも信長の無念はひしひしと伝わってきたのだ。光秀軍の中には明智秀満、斎藤利三の姿も見えた。
 現在でもこの事件に関しての定説はない。光秀の恨みや野望が原因だとする説や、光秀以外の首謀者がいたとする説もあり、日本史上において大きな謎でもある。しかし、私は黒幕が秀吉だと思うが、どうであろうか? その根拠は、本能寺の変を機に秀吉が天下人となり結果的に一番利益を得ている事実だ。この説は物証に欠くために学説としては定着していない。だが、推理のセオリーに基づけば、「最終的に最大の利益を手にした人物を疑え」ということになるのだ。

 薄らと雪化粧をした写実的絵画のような、まだ建築して間がない金閣寺の前にある池の上空、約二十メートルへやってきた。池に映るかすかに揺らぐ鹿苑寺金閣≪ろくおんじきんかく≫に、私は言葉ではとてもいい表せないぐらいの、感動と宗教心を掻き立てられたのだ。ルネサンス以降の美術が現実をありのまま表現することを目指してきた、広義の写実主義と呼べる美しさだろう。鹿苑寺金閣は、義満が伝統的な寝殿造と禅宗仏殿を融合
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