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竜宮城に行けた男
竜宮城に行けた男
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人とも同じようなパーマをかけて、お揃いのロングの花柄ワンピーを着ている姿が手に取るように見えた。全く同じような顔をしているから双子だろう。
 多分、神戸新開地に通じる商店街からであろうパーシーフエイス楽団が奏でる「夏の日の恋」が聞こえてきた。音が割れていて、ザー、ザーとかすかに雑音が混じる当時のラジオに、しばしオールデイズの好きな私は聴き惚れた。
 だが長居は無用だ。
 私は先を急いでいるので、一挙に明治時代まで移動した。もう辺りは闇に包まれていた。が、眼下には煉瓦造二階建ての瀟洒≪しょうしゃ≫な洋館が、ぼんやりと見えた。もう少し洋館に近づくと、二階で洋装した男女がビリヤードに興じているのが見えた。近づくと、ワインを飲みながら談笑している数人の姿が窓越しにうかがえた。
(あぁ、これが、中国詩経の「鹿鳴の詩」に起源を持っている来客を手厚く歓待する意味を表す鹿鳴館だな。鹿鳴館は中井櫻洲が名付けた)
 以前、調べたところによると鹿鳴館は三年を要して、千八百八十三年(明治十六年)七月に落成した。設計にたずさわったのはジョサイア・コンドルであり、施工は大倉喜八郎と堀川利尚との共同出資で設立した組織である土木用達組≪どぼくようたつぐみ≫だ。舞踏会にはあまり興味なぞない。だが、三島由紀夫氏が文学座に籍を置いていた時に、杉村春子のために書き下ろした戯曲「鹿鳴館」に感銘を受けた記憶があったので、様々な角度から二十分ほど見ていた。

 私が過去に遡及した経験はわずかであった。ところが、タイムトラベルする場所と日時を特定できる能力を身に付けることができるようになった。そのことは、私にとって大いなる収穫であった。今後の時間遡行がますます楽しみになってきたのだ。今は明治時代にいる。明治時代にタイムトラベルしたのなら実際に顔を見てみたい人達は大勢いる。以下のような人々だ。
 明治三十七年に日露戦争が始まると、第三軍司令官として旅順要塞の攻略を指揮したが、この時に二人の息子を戦いで失った。そして、終生敬愛した明治天皇の死に殉じ、妻の静子とともに東京赤坂にある私邸で自刃した、私が尊敬する人物である乃木希典≪のぎ まれすけ≫。初代内閣総理大臣で、千九百九年、ハルピンにて韓国人に暗殺された伊藤博文。廃藩置県を推進した岩倉具視。明治維新で活躍した西郷隆盛や木戸孝允と並んで、「維新の三傑」と称される大久保利通。造幣頭、大蔵大輔(大臣)などを歴任した井上馨。私財をなげうってまで自由民権運動に身を捧げた板垣退助。山岡鉄舟・高橋泥舟と共に「幕末の三舟」と呼ばれ、天皇が最高司令官として全権を統帥した海軍大輔を立派にこなし、亡くなる時に「コレデオシマイ 」と言ったユーモアのセンスを持っていた勝 海舟。
 そんな人達と一目で良いからお会いしたかった。しかし、残念だが時間的余裕がないので割愛し
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