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真田十勇士
巻ノ百二十三 山を出てその一

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               巻ノ百二十三  山を出て
 大野からの文を受け取りだ、幸村は大助と十勇士達に話した。
「遂にじゃ」
「はい、いよいよですな」
「この山を出て」
「戦に出られる」
「その時になりましたな」
「そうじゃ」
 その通りだというのだ。
「その時が来た」
「ではこれより」
「すぐに山を下りましょうぞ」
「是非」
「そして大坂に」
「いや」
 ここで幸村はこう言った。
「その前にやることがある」
「これまでのことですな」
 大助が父に応えてきた。
「やはり」
「うむ、これまで九度山にいたが」
「これまでの間」
「九度山の民達にはよくしてもらった」
「常に」
「村で採れた野菜をくれたり猟の獲物もな」
「何かとでしたな」
 大助も話した。
「届けてくれました」
「幕府の目があったが」
「それを気にもされず」
「そのうえでな」
「よくしてくれましたから」
「恩を忘れてはならぬ」
 絶対にという言葉だった。
「拙者は常に言っておるな」
「はい、父上は」
「人は忘れてはならぬものがあってな」
「恩もですな」
「そのうちの一つじゃ」
「だからその恩を」
「忘れてはならぬ」
「では」
「その恩としてな」
 まさにとだ、幸村はここで。
 自分達の後ろにある幾つかの酒樽を見てあらためて我が子と十勇士達に話した。
「これを渡し」
「そして、ですか」
「そのうえで、ですか」
「別れの挨拶とする」
「そうされますか」
「そう考えておる」
 こう話した。
「そして他にもな」
「この屋敷にあるもの」
「それを全てですな」
「これまでよくしてくれた礼として」
「贈りますか」
「些細なものしかないが」 
 質素な家だ、幸村も十勇士達も贅沢はない。それで宝だのそうしたものは全くないのが現実である。
 しかしだ、それでもと言うのだった。
「あるものはな」
「全てですな」
「贈り」
「これまでの礼とする」
「そのうえで、ですな」
「山を去られ」
「大坂に」
「そうしたい、伊賀者達は見張っておる」
 幸村はこのことをはっきりとわかっていた、彼等も隠れていたがその視線と耳をそばだてていることがだ。
「それも十二神将達がな」
「おりますな」
「九度山の傍から見ています」
「それも常に」
「そうしています」
「そうじゃ、しかしな」
 それでもと言うのだった。
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