閑話1→一夏と太郎@
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「〜はい、では次の問題が分かる人……では一夏君、この答えは何かな?」
「はい!5です!」
「はい、良くできました!正解ですよ。この解き方は……」
先生が、黒板に向かって答えまでの式を書いている時を見計らって、ちらりと後ろを見る。
その視線に気づいた太郎兄さんは、気づいて小さくだが手を振ってくれた。
その笑みに、内心ガッツポーズをする。
太郎兄さんはいつも、今日の授業参観みたいなイベントには、必ず来てくれる。
運動会には、わざわざ手作りの弁当を持ってきてくれた。
だから俺は、みんなみたいに両親が居なくても寂しくなかった。
最初は辛かった。
皆が当たり前のように親の話をしているとき、俺はその話題についていけないから。
それは、俺と千冬姉さんにとっては、『当たり前』ではないから。
その寂しさと辛さが無くなったのは何時だろうか?
太郎兄さんが『女にモテるなら料理だぞ』と、笑って料理を教えてくれた時だろうか?
それとも、運動会の親子二人三脚を『ヤングパパです!』とか言って、一緒に走ってくれた時だろうか。
千冬姉さんから、『私の家族は、お前一人だ』と言われた時の孤独感。
それは、最近は全く感じない。
なぜなら……
階段をかけ上がる音がする。
バタついた足音に顔を見合わせる他の皆の親たちと、頭を押さえる太郎兄さん。
後方のドアが開けられると、そこには急いで来てくれたのか、汗だくの千冬姉さん。
急いでくれた姉さんに感謝しつつも、すぐにかけよって首もとをハンカチで拭く太郎兄さんに微笑ましくなる。
相変わらず仲が良いなあ。
スーツ姿の太郎兄さんと姉さんを見て、夫婦みたいだな、と思っていると、チャイムが鳴った。
僕の、織斑一夏の授業参観は、こうして終わった。
「はあ、急いで来たのに間に合わなかった。残念だ」
「大丈夫だよ、千冬姉ちゃん。一生懸命来てくれたのわかるし、太郎兄さんが先に来てくれたし」
本当に残念そうにタメ息をつく姉さんに、笑って答える。
その両手は、お願いを聞いてくれた姉さんと兄さんにそれぞれ繋がっていた。
「それよりも、最近出来たファミレス行きたい!良いでしょ?」
「ん?ああ、良いぞ」
子どもらしくワガママを言いながら、『ファミリー』レストランで皆でご飯を食べる。
その喜びを噛み締めながら、一夏は帰り道を歩いていた。
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