第三部 古都にけぶる月の姫
死神
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ろとは言ったけれど、目の前で死なれるのも寝覚めが悪すぎる。構成員を蹴り飛ばして避難させる。一人のほうが後先考えなくて済む分、やりやすいし……
だけど、それがいけなかった。明らかに意識をそっちにやってしまった分、周囲への警戒を怠ってしまっているわけで。背中に灼熱が弾ける。貫かれてはないけど、掠った…!?
咄嗟に飛び下がろうとした足が掴まれる。見れば、地面から無数に伸びあがった付喪神たちの腕の一本がしっかりと足を掴んでいた。当然、動きは止められ……
「あっ……くッ……!?」
無数の獣の影。いつの間にか姿を現したそれらが、私を地に引き摺り倒す。
犬の様な影、猫のような怪物、無数に湧き出る蛇蝎―――まるで畜生道に落とされたみたいだ。ここは百鬼夜行の潜む空間。敵対するということは、空間そのものを敵に回すこととほぼ同義だ。
痛みが熱さとなって弾ける。布地の引き裂かれる音と、僅かな血臭。少しずつなぶり殺しにしていく算段の様だ。身を守る衣服が引き裂かれ、冷たい息がかかる。
―――ああ、私、ここで終わりかな?結局、曹操に何も返せないまま……終わるのかな…
体が熱い。外側から加えられる痛みではなく、内側から焔であぶられているかのような熱さ。細胞が沸き立つような、煮えたぎる脈動。だと言うのに頭だけが、まるで氷のように冷え切っている。
――――――このまま死ぬのは、さすがに嫌だな。
――――――じゃあどうすればいいんだろう。
――――――簡単な話だ。殺せばいい
――――――ナニを?
――――――目の前の、全ての妖を。
――――――全て、滅してシマエ
――血と肉塊が、あたりに飛び散った。
むせ返るほどの血臭の中、私は起き上がる。
頭の中に声が弾ける。視界に霞がかかり、意識が遠のきそうになる。
目の前に蠢く“魔”を、根こそぎ切り捨て滅ぼしてしまえと意識が囁く。
「ああ、そうだね――――ずっと、やってきたことだもの」
刀を握る力を強くする。なんだ、こんなに単純だったんだ。
ただほんの少し、あのころに戻るだけ。生きるために、生に執着するために魔を殺す、そのためのモノとして、生きていたあの頃に。
「人間じゃないなら、手加減なんていらないよね―――」
なら、全力で。殺して、殺して、殺し尽くしてあげる。
闇色の瞳が深みを増し、すぅっと細められる。同時に研ぎ澄まされた殺気が全身から吹き荒れる。触れるだけで斬れそうなそれは、見ていることしかできない構成員の心に畏怖を刻みつけるほどの、絶対的な殺意。
右手に握った刀に力を送り込む。刀身を包むオーラの色は、常の蒼ではなく――――闇を切り取ったかのような黒が混ざる。
蒼黒に染まった刃を一振りする。さあ、始めよう。
此処より先は―
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