銀河帝国、ホルスト・ジンツァー大佐
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ローエングラム侯爵は唐突な告白に驚き、一回り年上の訪問者を凝視。
蒼氷色の瞳が瞬き、名状し難い感情に彩られた。
僕と敬愛する直属の上司、キルヒアイス提督の眼前で。
ヤン提督に劣らず、真摯に応えた。
「率直に言って、俺には理解し難い。
今の感想を聞くまで、卿は俺の野望を阻む最大の障壁と考えていた。
いや、正直に言おう。
俺よりも《上》だ、と痛感させられたよ。
多少の言葉を交わしたに過ぎぬが、卿の人為は理解出来たと思う。
上手く言えぬが、卿は俺より一段上の階梯から物事を俯瞰している気がする。
或いは俺と同じ種族に属し、更なる高処に上る機会を得た者ではあるまいか?
心理学に通暁し歴史の造詣も深く、俺を凌ぐ叡智と感じ畏敬の念を覚えた。
優れた戦略家の印象と最前の言葉は懸け離れ過ぎ、心理戦の罠と勘繰りたくもなるがね。
敵の巣窟に単身乗り込んだ卿が虚偽を弄し、奸計を仕掛けるとは思わないな。
姉を奪われた俺は暗愚な皇帝と取り巻きの門閥貴族、ゴールデンバウム王朝を倒すと誓った。
自由惑星同盟の現状、最高評議会の腐敗を熟知する卿に賛同を求める気は無い。
卿と俺は案外、同じ札の裏表なのかもしれない。
俺は《闇》を見つめ続け、卿は《光》を見つめ続けた。
《光》とは人間に対する希望であり、《闇》とは人間に対する絶望だ。
未来への希望を喪わぬ卿の剛さ、心理学的な魔術に魅せられたと言う処かな?
先刻の告白は韜晦や偽り、心理的術策の類とも思えない。
心に染み入る、とは言わぬが妙に感情を揺さぶられた。
賛同する訳ではないが、否定する気も無い。
民衆を搾取して肥え太る門閥貴族共と比べれば、嫌いな考え方でもないからな。
自由惑星同盟は銀河系統一の障害、門閥貴族共の後に討滅と考えているがね。
帝国の掃除を邪魔せず、卿と改めて会談の場を設ける条件で武装中立を認める。
有意義な会談だったが、最後に、聞いて置きたい。
卿が同盟から受け取る総額の数倍、帝国紙幣の年金を受け取る気は無いか?」
ローエングラム侯爵は有能な人材を集め、元帥府の強化を図っている。
ヤン提督にも破格の待遇を囁き、相談相手として留まる事を熱心に薦めた。
天文学的な金額の受領も可能、と署名入りの誓約書を見た賓客は髪を掻き毟ったけど。
高く評価して貰った事に感謝の詞を述べ、丁重に辞退して風の様に去った。
ユリアン君から、後で、聞いたんだけど。
不敗の魔術師は要塞に戻った後で、ぼやき捲くったんだって。
ああ、なんて、馬鹿な事をしたんだろう!
誘惑に負けておけば、夢の様な年金生活が待っていたのに!、ってね。
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