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不老不死
第一章
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           不老不死
 唐の皇帝李世民は名君であった、とかく国そして民の為に心を砕いて日々政治を行っていた。
 その為常に己のことにも身を慎み暮らしは質素であった、そして。
 丹薬、不老不死の霊薬を造らせて飲んでいた。この日も丹薬を飲んでからそのうえで朝廷の廷臣達に言った。
「長く生きねばな」
「はい、そうしてです」
「国の政に当たって下さい」
「万歳翁がおられてこそです」
 即ち皇帝のことだ、皇帝をこう呼んで敬意を表しているのだ。
「唐朝は保たれます」
「ようやく天下が泰平に近付いています」
「ですからご自身のお身体もです」
「わかっている、不老不死を得れば尚よしだ」
 その場合はとだ、李世民は皇帝の座から言った。
「朕はこれからも丹薬を飲んでいく」
「万歳翁、くれぐれもです」
 廷臣の中から実に謹厳そうな顔立ちの者が出て来た。重臣の一人にしてその謹言の的確さで知られる魏徴だ。
「お身体はです」
「保つことだな」
「そうされて下さい、ですから」
「丹薬を飲むこともいいな」
「はい」
 そうだとだ、魏徴は答えた。元々道士だったので彼もそれはいいことだと考えていた。だが。
 その見識からだ、魏徴は皇帝にこうも言った。
「一つお気をつけ下さい」
「何をだ?」
「はい、どうも秦の始皇帝はです」
 あまりにも有名なその彼はというと。
「おかしな丹薬を飲み」
「そのせいでか」
「命を縮めています」
「だからか」
「宮廷の道士の丹薬はいいと思いますが」
「おかしなものはか」
「飲まれるべきではありません」
 こう言うのだった。
「くれぐれもこのことはです」
「気をつけてか」
「はい、始皇帝の二の舞にならぬ様に」
「そうだな、始皇帝は不老不死を追い求めた」
 まさにそう言っていいものだった、始皇帝の不老不死への願いは。
「だが死んだ」
「そうならぬ様に」
「おかしな丹薬は飲まず」
「そうされて下さい」
「わかった、ではこのことについてもだ」
 李世民は己の前、皇帝の座の下に控える魏徴にこうも言った。
「朕を諫めてくれるか」
「必要な時は」
「そうしてくれるか」
「わかりました」
 魏徴も応えた、そしてだった。
 彼は実際に丹薬についても李世民を諫め李世民もその言葉を聞いた。だがその魏徴が病の末に世を去り。
 李世民は嘆いてだ、こう言った。
「朕は鏡を失った」
「魏徴殿がおられなくなり」
「それで」
「そうだ」
 廷臣達に嘆きつつ言った。
「これ程無念なことはない、しかしな」
「政はですね」
「これからもですね」
「やっていく、朕は皇帝だ」
 その責務ある座にあるからだというのだ。
「だからだ」
「これかもですいね」
「お気を引き締め
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