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火吹消し婆
第三章

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 不意にだ、本堂の物陰からだった。 
 青い、水色に近いその色の着物を着た白髪の痩せた老婆が出て来た。老婆は物陰に隠れていたが三人がいる場所からはその姿が見えた。
 その老婆を見てだ、恭一は眉を顰めさせて住職に小声で尋ねた。
「住職さんのご家族ですか?」
「いや、ああした人はいないよ」
「ご家族でないって」
「ああした人はいないから」
「じゃああの人誰ですか?」
「急に出て来ましたけれど」 
 絵梨花も言う。
「あのお婆さんは」
「何処にいたのかな」
 恭一は住職が家族にああした老婆はいないと言ったことを思い出しながら絵梨花に話した。
「一体」
「ずっと本堂に隠れていたのかしら」
「そんなことも有り得ないよね」
「そうよね」
「まあ今はじっくり見ていよう」
 住職は老婆が何者でどうして本堂にいるのかわからない二人に囁いた。
「あのお婆さんをね」
「はい、じゃあ」
「そうします」
「何かあのお婆さん気になりますし」
「不思議過ぎて」
 どう見ても普通ではなかった、それ故に二人も興味があった。
「それじゃあ」
「あのお婆さんを」
「見ていようね」
 住職は二人に小声で囁き二人は無言で頷いた、そうしてだった。
 三人で老婆を見守った、老婆は線香のところにそっと近寄ってだった。 
 線香の方にふうっと息を吐いた、するとそれまで燃えていた線香の火が消えてそこから出ていた煙も消えた。そうなったのを見てだった。
 絵梨花も恭一もだ、この時は火を消しただけだと思った。しかし。
 老婆は火が消えたのを見届けると微笑んですうっと煙の様に姿を消した。火だけでなく煙まで消した老婆がそうなった。
 後には火が消えた線香だけが残った、住職はその一部始終を見てから二人に話した。
「あれは火吹消し婆だよ」
「あの、如何にもって名前で」
 それでとだ、恭一は住職に眉を顰めさせてつつ言った。
「妖怪にしか思えないですが」
「妖怪だよ」
 実際にとだ、住職は恭一に答えた。
「火吹消し婆は」
「やっぱりそうですか」
「うん、そしてね」
 住職は恭一だけでなく絵梨花にも話した、火吹消し婆という妖怪について。
「あの妖怪は火の元があるとね」
「ああしてですか」
「お口からふうって息を吐いて」
「それで消すんだ」
 そうするというのだ。
「今拙僧達が見たみたいにね」
「ああしてですか」
「消して回るんですか」
「前からこ上本町では噂があったんだ」
 火吹消し婆のそれがというのだ。
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