第三章
[8]前話
しかしその寄付をした人のことは誰も知らずこのことが話になっていた。
「一体誰だろうな」
「誰が五億も出したんだろう」
「凄くいい人にしても」
「五億なんてポンと出せないわよ」
「普通の人は」
「とても」
それだけの高額の寄付なぞというのだ。
「どんなお金持ちかしら」
「そこまで出す人なんて」
「酔狂で心優しいお金持ち?」
「そんな人?」
誰もが疑問に思った、それで誰かを話すのだった。
ロートの弟子もその話を聞いて知っていてだ、ロートに聞いた。
「不思議な人もいるものですね、五億ですよ」
「孤児院への寄付の話か」
「先生も知っていますよね」
「一応は」
知っているとだ、ロートは弟子に答えた。
「聞いている」
「そうですね、五億もですよ」
「寄付をしたことが」
「立派な人もいるもんですね」
弟子の言葉は心から感心し感激しているものだった。
「本当に」
「立派か」
「立派ですよ」
まさにというのだった。
「こうしたことをする人は」
「そうなのか」
「ですから先生も」
弟子はロートにも声をかけた。
「こうした人みたいにですよ」
「お金があればか」
「したらどうでしょうか」
「そうだな」
ロートは弟子の言葉に素っ気なく返した。
「考えてみよう」
「そうして下さい、お金はあまり使ってないですよね」
「贅沢には興味がない」
見れば今も白衣の下は質素なものだ。
「僕はな」
「じゃあ余計にですよ」
「いつも法外な報酬を要求しているからか」
「寄付もしないと」
困っている人達にというのだ。
「そうしましょうよ」
「だから考えておくとな」
「言われたんですね」
「そうだ」
弟子への返事はここでも素っ気ないものだった。
「そうしておこう」
「お願いしますよ、大阪二十六戦士の一人なんですから」
大阪の街と市民達を護る彼等のうちの一人だというのだ。
「そうして下さいね」
「何度も言うが考えておく」
ロートはこう言うばかりだった、だが弟子は知らなかった。彼の机の中にはいつも小切手があることを。そしてその小切手は何かあるとすぐに使われることを。この前五億円がそこから出されたこともまた。
天才薬剤師 完
2018・1・24
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