第一章
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夫婦のバレンタイン
この時夏希みのりは夫の彰のバレンタインに贈るチョコレートは何にしようか悩んでいた。それで実家にこっそりと戻って母親にも相談していた。
「どうしたのがいいかしら、彰君へのチョコレート」
「そんなの簡単でしょ」
母のかなえは娘にあっさりと答えた。長い黒髪を後ろで束ねていて大きなやや切れ長の目が印象的で二十三歳だがまだ十代の初々しさが残る娘に。冬なので露出の少ないズボンとセーターという服装だが胸の大きさは目立っているのは自分と同じだと思いつつ娘に答えたのだ。
「もう時間があったらね」
「その時は?」
「手作りでなかったら」
かなえは娘にさらに言った、見ればかなえの顔は娘が二十歳程年齢を重ねて髪の毛を少し短くした感じだ。
「これはっていういいチョコを買ってね」
「プレゼントなの」
「どっちかよ」
「そうなのね」
「悩むことはないのよ」
全くという返事だった。
「こんなのはね」
「バレンタインのチョコレートは」
「そうよ、もう即断即決でね」
それで決めてというのだ。
「あげればいいの」
「そんなものなの」
「あんたはいつも悩んでたのね」
「ええ」
みのりは実家のキッチンの横にある食事に使うテーブルの向かい側の席に座っている母に答えた。今みのりが座っているのはかつて自分が座っていた席だ。結婚前に。
「どうしようかって」
「それで今年もなの」
「悩んでてね」
娘は母に素直に答えた。
「今年はどうしても決まらなくて」
「私に相談しに来たのね」
「そうだったの」
実際にとだ、みのりはまた答えた。
「それで来たら」
「今アドバイスしたわよ」
「二択ね」
「どっちかよ」
かなえの返事は素っ気ないままだった。
「時間があったら作ってね」
「時間がなかったら買う」
「それだけよ」
「何を作るか何を買うかは」
「それはもう直感よ」
それで決めろというのだ。
「もうお店に行ってね、これだって思ったチョコを買うのよ」
「それでいいの」
「そう、作るのならね」
その場合のアドバイスもした。
「もうレシピの本を開いて」
「チョコレートの」
「そう、チョコレートのお菓子でこれだってのがあったら」
「それを作れっていうのね」
「直感でいいの」
またこう言うかなえだった。
「もうそれで決めたらいいのよ」
「ううん、何ていうか」
「難しく考えないで」
「それでいいの」
「そうよ、私はお料理では迷わない様にしてるのよ」
「どうしてなの?」
「迷って時間がなくなったらお料理が出来なくなるからよ」
それ故にというのだ。
「だからね」
「お母さんは迷わないの」
「そうよ、全くね」
「迷わずに選んで」
「それ
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