ターン86 百鬼の疾風と虚無の仮面
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だが、童実野町が丸々飲み込まれるところまで来ているとなると、すでに貯水どころか決壊寸前まで事態は切迫している」
「なぜだと思う?」
どこか嘲るような響きを含んだその言葉に、躊躇いつつも三沢が口を開く。
「可能性は2つ。まず1つが、俺の計算が最初からすべて間違っていた場合だ」
「それから?」
かすかに面白がるように、「遊野清明」がその先を促す。
「もう1つは……ダークネスに、何らかの協力者が存在するパターンだ。あちらの世界からダムを押すだけでなく、こちら側からそのダムに穴をあければその分だけ水の放出は早くなるからな。ダムの決壊を待たずとも、その穴が大きければダークネスはこちらの世界に出てこられる」
「なるほど、なかなか面白い見解だ。そして、君はやはり優秀な人間だよ。想像以上の速さで、私の語る真実に近づきつつある」
「なんだと……?」
そこまで言われてようやく、三沢の警戒心が働き始める。ダークネスが彼に自分の犯した失策を思い知らせて心の闇のつけ入る隙を作るべくわざと仕掛けていた洗脳を緩め、これまで彼が見過ごしていたいくつもの違和感が1度に浮かび上がりその脳内を駆け巡る。次の瞬間には全てを察した三沢が、すぐ横の机に飛びついていた。
卓上に置いてあったデュエルディスクを拾い臨戦態勢を整える彼の前で、もはやその必要もなくなった「遊野清明」としての化けの皮を剥いだ闇がかりそめの人型を露わにする。デュエルディスクを取った拍子に放り投げられたPDFが床に激突し、硬質な音が立った。
「ミスターT!」
「そう。真実を語るもの、トゥルーマンだ。君との先ほどのデュエルは、なかなか面白い出し物だったよ。だが、もはや君は舞台から降りた人間だ。どれほどアンコールを望まれようと、おいそれと登場すべきではないと思うがね」
「何を訳の分からないことを……!」
たらり、と彼の首筋を一筋の汗が伝う。
ミスターTを名乗るこのダークネスの手先が神出鬼没なのは今に始まったことでもないし、その情報を事前に得ていた彼も当然その心構えはしてきたつもりだった。つい先ほど実際に対峙した時も、今のように不吉な気配は感じなかった。だが初めてこの闇の具現化した存在とたった1人で向かい合ったとき、所詮人間にすぎない彼のちっぽけな覚悟などすぐに打ち砕かれそうになってしまう。
ようやく彼は理解した。先ほどの対峙の際には、この闇そのものの化身はその実力を隠していたのだ。どこまでもちっぽけな石ころのような存在でしかない自分が何かのはずみで、辺り全域に広がる深く広い闇の底へ加速をつけて転がり落ちていく……ふと脳裏をよぎったそんな不吉なビジョンを振り払おうとするも、否定しようとしてもしきれない恐怖心がいたずらに想像力を刺激する。緊張のあまりか気が
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