ターン86 百鬼の疾風と虚無の仮面
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と手書きの数式が敷き詰められているからだ。その数式の中心で、黄色い学生服を着たこの部屋の主がさらに目の前の紙に向かって図やグラフ、数式を書き込んでいく。
「後は清明に頼むとして……それにしてもおかしい、どういうことだ……?」
「何が、だい?」
彼以外には誰もいないはずの部屋に、空虚な声が響く。顔をこわばらせて弾かれたように振り返る三沢が、侵入者の顔を見てふっと力を抜いて苦笑した。
「なんだ、清明か。脅かさないでくれよ」
「ははは。それで、どうしたんだい?」
今三沢は確かに目の前の存在を「清明」と呼称した。だが、そんなことがあり得るだろうか?廃寮に向かったはずの男が、なぜここにいる?遊野清明という男はこうして向かい合っているだけで、背筋が寒くなってくるようなゾッとする気配を放っていただろうか?彼は元々三沢本人の頼みによりこの部屋を出て行ったのだから、その三沢が呼び出さない限りそうそう勝手に戻ってくるような真似はしないはずだ。
考えるまでもない。ダークネスの力を使った常識の操作だ。もっとも普段の三沢であれば、かすかに感じたその違和感をより突き詰めて考え、その洗脳を打ち破ることも可能だっただろう。だが不幸なことに、今の彼にその余裕はなかった。つい先ほど童実野町に向かった十代から届いた、たった1通のメール。そこに記されていた内容が彼の思考の大部分を占め、かすかな違和感を突破口ではなく気のせいとして封殺してしまったのだ。
だから、三沢は口にしてしまう。自分が遊野清明だと思ったその存在に、手持ちの情報を自分から開示してしまう。
「さっき、十代から連絡があってな。童実野町の人間は……どうやらすでに、ダークネスに飲み込まれてしまったらしい」
「ほう、それはそれは」
悲痛な表情の三沢とは対照的に特に驚いた風もなく返す、目の前の「遊野清明」。だが、彼の出身はまさにその童実野町だったはずだ。ほんの少し考えれば、子供でもわかる違和感。だが、目の前の問題に気を取られた三沢はやはりそれに気づくことができない。
「だがおかしいんだ。俺の計算が正しければ、そんなことが起きるはずがない。そもそもダークネスがこちらの世界に侵攻するためには、まずミスターTを差し向けて人間を心の闇に取り込み、ダークネスそのものの力を増す必要がある。こんな早くからこれほどのスピードで攻めてこれるわけがないんだ」
「なるほど。例えるならば、ダムのようなものだな。貯水湖の水を増せばそこから放出される水の勢いも増していくが、それでも限界が来たらやがてダムは決壊し、一度に押し止められていた水が溢れ出る」
「ああ、そうだ。その例えに従えば、ダークネスはまだダムを壊す……つまり次元を越えて自身がこの世界にやってくるために、貯水を続けている状態のはずだ。
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