特別編 ファースト&ネクストジェネレーション
第1章 ヒルフェマン・ビギンズ
前編 古我知剣一の追憶
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よね」
兄代わりの少年の行方を探す彼女を、台所に立っていた一人の美女が微笑ましく見下ろしている。少女の母、救芽井華稟だ。
義父――救芽井稟吾郎丸の「アメリカンな食べ物がいい!」という我儘に付き合わされ、遥か遠くの田舎町まで買い出しに行かされている養子の苦労は、彼女もよく知っている。
「日本食の備蓄ならいっぱいあるのに……」
「だから私達で美味しく頂いちゃいましょ。今日はあなたと剣一君が大好きな唐揚げよ」
「ほんと!? やったー! 私も手伝うー!」
「はいはい。じゃ、お手手洗って来なさい」
「はーい!」
だからせめて、義父の我儘に付き合っている養子には、美味しいものを食べさせてあげたい。その心遣いから、華稟は彼の好物である唐揚げの準備をしていた。
そんな母の愛情に触れ、樋稟も嬉しさを全身で表現するように飛び跳ねる。どたどたと手洗い場に駆け出す愛娘の背中を、母は穏やかに見送った。
(剣一君……近頃、甲侍郎さんを避けてるわよね。何があったのかはわからないけど……どうにか、元気にしてあげないと)
――だが。
娘から視線を外し、台所と再び向かい合った彼女の顔色は、どこか不穏な色を滲ませている。
(それに……なんだか、嫌な予感がするわ)
養子の胸中に渦巻く闇に気づいていながら、その全貌を解き明かせない至らなさが、その胸を締め付けていた。
ふと、華稟は窓の外から伺える山の下――荒野に敷かれたアスファルトの向こうにある、田舎町を見つめる。
(剣一君……)
彼女は内心どこかで、悟っていたのかも知れない。
あの町で今――運命が動き出したことに。
◇
乾いた青空に突如、火薬の唸りが響き渡る。
「え……!?」
銃声が数発。確かに、聴覚に轟いていた。
自分が撃たれたわけではない。体のどこにも、痛みは感じない。
剣一は、町を背にした途端に響き渡った音に反応し、咄嗟に振り返った。動揺に揺れる、その視線の向こうには――喧騒に包まれたモーテルが伺える。
さっきまで、友人達と談笑していた溜まり場だ。
「……!」
それに気づいた瞬間。剣一はそれまで大事に抱えていた紙袋を放り出すと、一目散に走り出す。
息を荒げ、肩を揺らし、懸命に走る彼の目前で――二度目の銃声と、悲鳴が上がった。
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