特別編 ファースト&ネクストジェネレーション
第1章 ヒルフェマン・ビギンズ
前編 古我知剣一の追憶
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い実践データを取る――という目的で、彼は腕輪の携行を許可されていた。
だが、それは「絶対に着鎧甲冑で人を傷つけない」という約束の上に成り立っている。着鎧甲冑の超人パワーで生身の人間を殴打すれば、怪我では済まされないからだ。
万一、暴漢に狙われるようなことがあっても、その力で戦ってはならない。その力はあくまで、人命救助にのみ使わねばならない。その約束を愚直に守り、彼は今も「救済の先駆者」の力を保持し続けている。
その「人間を超える力」を隠す黒いレザージャケットの袖を一瞥し、彼は愛想笑いを続けていた。
(人命救助のため、か……)
友人達から出た言葉を胸の内で噛み締め、少年は胸中に淀みを感じる。
ほんの数年前なら、「人命救助」という理想を掲げる救芽井家の理念を褒められれば、我が事のように心から笑っていられただろう。
だが今は、素直にその言葉を喜ぶことが出来ない。喜べない自分に、なってしまっていた。
――着鎧甲冑の基礎技術はすでに完成し、最低限の量産に必要なデータも概ね仕上がっている。
だが、より安定したスーツを効率的に量産するには、今の研究費用では足りなくなっていた。ここまで辿り着くために、持っていた予算の大部分は使い切っている。
今後の研究開発を円滑に進めて行くには、スポンサーの確保が必要になるのだが……その点は難航していた。
機械技術で世界一の座を欲しいままにしているこのアメリカは、軍事大国としての側面も持ち合わせている。研究開発においてここ以上の土壌はないが――救芽井家の理念と国家を代表する軍事企業の要求は、真っ向から対立していた。
兵器としての運用を条件とする出資の話は、数年前から絶えず持ちかけられてきたが、甲侍郎は一度たりともその話を聞き入れたことはない。
軍事が絡まない出資の話もなくはないが、その額はこの先必要になる研究開発費にはまるで届かないものばかりだ。
技術は人を傷付けるものではなく、人を救うためにある。その救芽井家の理念が、救芽井家自身の首を絞める状況が続いていた。
――兵器として利用することで死者は増えるだろう。だがいずれは、それ以上の生者を救えるはず。
それが無理だとしても、今この瞬間に死にゆく運命にある人々を救うことは出来るのではないか。理想より、今在る命を守るべきではないか。
研究開発に深く関わっているからこそ少年は、そのような疑念を抱いたまま今日を生きていた。
(甲侍郎さん……あなたは、本当に正しいのですか……?)
彼が育ての親を疑い始めるようになったのは、それだけではない。
今から二年前――二◯二二年。日本では未曾有の航空機墜落事故が発生し、乗客乗員が全滅するという大惨事が起きていた。
その墜落現場
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