暁 〜小説投稿サイト〜
Secret Garden ~小さな箱庭~
『終わりの始まり編』
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初
知らない、図鑑などでも見た記憶もない、言い寄れない恐怖にごくりと唾を飲み込み曲がり角の陰に身を潜めルシアは恐る恐る顔だけを覗かせてみた。一つ角を曲がった先の光景は信じられない者だった。まるで本当に御伽噺(おとぎばなし)に書かれていたような世界に紛れ込んでしまったと錯覚してしまうくらいに。

「――――っ!?」

 うう……ああ……と低い唸り声をあげてのろのろと不自然に動いている人型をしたナニカ。どろっとした液体のような身体はコータイルを思わせる黒く光沢しており、人型とひとえ言ったがその体は不規則に動き一秒たりとも同じ姿は保てていない、少しずつ変化し進化していっているように見える。
それが一体二体三体……十、百、千、と見える範囲いっぱいにいるのだ。地面に落とした甘いお菓子に群がる蟻のようにうじゃうじゃと。うっ、と遠くから観察しているだけで胸の奥底から消化された食べ物がこみ上げてくる。口を押さえ吐き出されようとするものを必死に抑え込み、ふらふらとした足取りでその場から離れることにした。見たあれが何なのかはわからないが自分にとっていい物でない事は確かだ。味方ではなく限りなく敵に近い存在だという事はあの何も見ていない虚ろの赤い目と意思なく徘徊する不自然な動きから理解できる。

「早くヨナと合流しなくちゃ……あんな変な奴らがうようよしている状況に一人でいるのは危険だ」

 一人で胡蝶蘭(こちょうらん)を探しに出かけたヨナへ向けて言った一言であり、一人でヨナを探しに石の神殿へ向かう自分へ向けた警告。あれは危険だ。今まで狩りをする為色々な獰猛な獣達と相対してきた経験が言う、どの生物にも分類されない奴らに絶対に見つかってはいけない捕まってしまえば殺されるだけでは済まないぞ、とそう告げるのだ。奴らが居る道に背を向け走り出した。石の神殿へ行くには遠回りになる道になってしまったが、奴らに見つかってしまう危険性から考えればそこまででもない。とにかく早くヨナを見つけなければっ! その想いだけでルシアはひた走る。直線に続く民家に挟まれた道をひたすら走り続ける。息があがり心臓が痛くなってきても我慢し休憩を入れることなく走り続けた。全てはヨナの為に……だがその判断は間違っていた事をルシアは思い知らされる事になる。

 村を抜け北側にある森を走っている時だった。吐く息はぜぇぜぇと荒いものになり、走る足もよろよろとなりふらふらであっちへこっへとよろけ真っ直ぐ前へ進めず、ついには膝を付きしゃがみ込んでしまった。けほっけほっと吐き出される唾液。

「さすがに……休憩なしで村から石の神殿へはやりすぎだったかな……」

 えへへ……と零した自嘲の笑み。

「休憩はもう終わり。ヨナ……を」

 がくがくと生まれたての小鹿のようにたよりの無い膝を奮い立たせもう一度立ち
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ