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ある経営者の後悔
ある経営者の後悔
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べられたと言う。

第二次世界大戦中、大日本帝国陸軍軍人が転進中(正しくは撤退中)南方の地で飢えに苦しみ、死の行進中に、マラリア,疫痢、赤痢等で亡くなったばかりの戦友を食して、生き残ったという話は余りにも有名である。
そのことは互いに秘密にし、全員はでないにしろ靖国神社で毎年哀れな戦友に、彼等は許しを乞う。
我々個人を形成する、約六十兆個の細胞核にあるDNAの遺伝情報には、カンバリズムの痕跡は明確に残されているのに違いない。

さて、私が確信した通りお客様は日に日に増加し、文字通り、行列ができる店に見事に変身し、常に満席で、三〜四時間のウエイティングは日常茶飯事で、原材料確保に腐心し、従業員募集のチラシを毎週折り込み、面接を毎日して採用者を物色し、更に厨房には原材料を保管する冷凍設備を四台増設した。
殆ど肉が取れない頭部を、四日四晩グツグツグツグツと煮込み、中国、東南アジアより直輸入した香辛料を加えた秘伝のタレに、薄くスライスした肉を、二日漬けて焼き肉の材料として提供した。
内臓は部位に分け、ホルモン、ソーセージ等に形を変えてお客様に提供したが「えも言われぬ美味ですね」と言うお客様からの讃辞も、耳にタコが出来る程だ。
常連客ばかりか、御新規さんも日に日に増えていき、当然、厨房に口が堅く肉を捌いた経験が長い新たな職人を四名増員したが、それでも連日総料理長達は必死に肉を捌き、ホールから次々入る注文に応える為に、こけた頬、窪んで血走った目で牛刀を振り回し、別注で堺より取り寄せた鋭い刺し身包丁で均等に肉を切り揃えている彼らの形相は、まるで死に神そのものだ。

人件費が売上高の四割を超えるようになり、客数に客単価を掛け合わせたのが売上高なので、私の次なる戦略は客単価を上げることである。
お客様に提供する焼き肉等、メニューを現状の三倍に増やすと共に、全国各地で人気が高い、焼酎、清酒を網羅し、ワイン、ドリンクの種類も充実させ、客単価アップに力を注いだため、純利益は徐々に上昇して行った。
お陰で、〇円に近づいていた預金通帳も今では、記帳する度に〇の数が増えていく。

しかし、川柳に「良いも悪いも因果の種は播けば芽を出すいつの日か」と唄われている様に、仏陀が説かれる因果応報は真実である。

目が虚ろで完全に気の狂った、総料理長はじめ七人の侍ならぬ、死に神達が、血が染みついた牛刀や刺し身包丁を手に、異様な形相で、百十八キロしかない私に向かい、毎日毎日、職業にしている人体解体の腕を振るって来たが「ギヤー」と叫ぶのが精一杯で逃げる余裕すらなく・・・・・・

私は、エジプト王ファラオ、始皇帝の様に、魂魄(魂と肉体)は離れてもいつかは肉体が現世に帰って来るとは信じていないが、霊魂の存在は固く確信しており、更に繁盛をし続けている店を毎日見に来ても罰は
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