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ある経営者の後悔
ある経営者の後悔
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と羊羹をつまみに、大ビンビールを立て続けに四本飲む癖が、いけないのかなあ。でも、これだけは、脂っこいおかずと同様に、止められそうもない。悲しい定めと諦めよう。
幼稚園では、健康優良児だったが、育ち過ぎて、会社での健康診断では、上半身肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧が合併した状態で、このまま推移すれば、冠動脈疾患で死亡すると医者から宣告されていた。で、この様だ。
きっと、遺伝に違いないと、先祖の所為にしたので、少し不安から解放された。

そんな悶々とした日々が続いたある夜、劣等感の残滓が横溢した無意識の底から、透明で躁状態の意識上に、とても素晴らしいアイデアが、何の前触れもなく唐突に顔を出した。
私には、それはまるで天の声だった。全身が、恰も雷神の稲妻に打たれ感電したかの如く、歪んだ陶酔とも悪夢とも形容し難い思い付きである。
全身が打ち震える素晴らしいくも、形容し難い甘酸っぱさに満ち溢れ、最上級の讃辞を送りたい何と魅惑的な美の極致であろうか?

シュルレアリスムを創始し「法王」として君臨したが、反発した人も多く「ブルトンはシュルレアリスムの父であり、子は常に父より優れ、子であるダリはその父から離れていった」と評価されているブルトン。彼の著書「通底器」の終り近くに『美は痙攣なり』という文章を、今から十年以上も前、学生時代に原書で読んだが、それは今正に思い浮かんだアイデアを端的に表現するに相応しい名文句ではないだろうか?

翌日から、早速準備に取りかかった私は、先ず今までの四倍の給与を支払うから、ぜひ私の計画を実行し、しかも、決して他言しないという念書を四名いる厨房担当者に書かせ、誓約書に血判まで押させた。
この事実は、彼らも同じ穴のムジナになったことを意味している。

早速、今まで何度か掲載を依頼してきた求人情報誌の担当者に連絡をし、私自ら作成した原稿を取りに来させた。
主な内容は、時給二千円、ホール担当、肥満タイプで一八歳〜三十歳位までの男女(本音は女性だけを求めていたが、男女機会均等法なる法律に阻まれて、表面上は男性も対象にせざるを得ない)土、日、祝日休み可、勤務時間帯は応相談、親類縁者が少ない一人住まいの方歓迎、という内容である。
発行部数が多い主要四社の日曜日の朝刊に、奮発して名刺八枚分に相当する募集覧を掲載したB四タブレット求人情報誌を十四万枚折り込んだ。

効果覿面である。日曜日には、朝から、面接の問い合わせで店にある四台の電話機は鳴りっぱなしだ。車両通行量が多い片側二車線の明姫幹線(姫路と西明石とを東南に結ぶ主要道路)より、南へ約二キロも離れている為、店へのアクセスを説明するに苦労したが、初日だけで四十名希望にピッタリした女性が面接に来ることになった。私なりの喜びの表現――イヒヒヒと思わず言い出しそうだった。
翌日
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