第10話 美女と田舎っぺ
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、拭いきれない不安がある。それは、凪が非常識なまでに凄まじい田舎者である、ということだ。
恐らく結友は、朧げにしか覚えていない海原凪という人物を、過剰に美化している。彼女の脳内に存在する命の恩人はきっと、現実とは掛け離れた姿になっていることだろう。
そんな夢想に生きている彼女が。草履に着物、麦わら帽子という場違い極まりない格好で東京を闊歩する変人――もとい「現物」と対面しようものなら。卒倒は必至。
到底、幻滅では済まされない。
「ま、まぁ、あいつが帰ってくるのは夜になるし。あいつには君のことも伝えておくから、そう遠くない日に会えるさ」
「そうですか……! ありがとうございます!」
(……あいつを無修正でこの子に会わせるわけにはいかない。次にこの子がここに来るまでに、あいつに常識的な振る舞いを叩き込まなくては……!)
「……伊葉さん?」
人知れず決意を固め、拳を握り締める和士。そんな彼のただならぬ様子に、結友は小首をかしげるのだった。
――そして、その夜。
トップアイドル「フェアリー・ユイユイ」も出演している流行りのバラエティ番組を、テレビでぼんやりと見ながら。和士が自室で頭を悩ませていると。
「ただいま帰ったべ〜! いんや〜、さすがにプロとの演習はキツかったべ。アカデミーの訓練とは全然違うんだべなぁ!」
「……」
そんな事情など露ほども知らぬルームメイトが、相変わらずの能天気な笑顔で帰って来た。出会った頃から変わらない、いつも通りの振る舞いを前に――和士はさらにむすっとした表情になる。
「ん? どしただ、和士くん。あ、もしかしてお腹空いてるだか? へへ、そうだと思っていっぱいお土産買ってきただよ! 明日は休みだし、今夜はお菓子ぱーてーだべ!」
「……はぁ、お前なぁ……」
アカデミー首席にして、最新鋭スーツ「救済の超水龍」のテストパイロット。そして、学生の枠を超えた、救芽井エレクトロニクスの研修生でもある。
そんなエリートヒーローとしての肩書を根こそぎ台無しにしてしまう、その佇まいを前にして。結友の件で頭を抱えていた和士が、一言申そうと腰を上げた時。
突如。
緊急速報を伝える無機質な効果音が、テレビから響いてきた。
「……ん?」
その聞きなれない音に気を取られた和士は、凪から視線を外しテレビ画面に目を向ける。そこには――緊急速報の内容が、テロップで淡々と流されていた。
「え……」
その内容に――和士の顔が。凪の表情が。
凍りつく。
――本日未明。乗客乗員合わせ、五百三十名を乗せたジャンボジェット機「三二一便」が、東京国際空港から太平洋上を移動中、消息を絶った。
機長との通信記録によると、操縦不能に陥ったという情報もある
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