第10話 美女と田舎っぺ
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…面会?」
自分の名がアナウンスされ、顔を上げた和士は思考を一度断ち切り――眉を顰めた。こんな時期に面会希望者が来るとは聞いていない。
アカデミーに入る前まで――投獄された元総理の息子ということでメディアから注目されたり、強引な取材を受けたことはあった。その類が、とうとうアカデミーまで波及してきたのか。
――そう訝しむ和士は険しい表情で腰を上げ、応接室へと足を運ぶ。
「伊葉和士、入ります」
「……はい」
だが、応接室の扉の向こうから聞こえてきた女性の声を聞き、ドアノブを押した和士は――その表情を驚きの色に一変させる。
「……こんにちは」
「き、君は……」
テーブルと向かい合う椅子だけが置かれた、殺風景な応接室に居たのは。メモもカメラも持たない、報道関係とは無縁な人物だったのだ。
だが――彼を驚かせたのは、そこではない。彼は、応接室で待ち続けていた女性――否、同い年くらいの少女に見覚えがあったのだ。
――雨が降りしきる入学式の日。橋に落ちた子供を救おうと凪が急流に飛び込んだ、あの一件。
自分達が到着する前から、溺れている子供を助けようとしていた、あの少女だったのだ。
腰に届く長さの、艶やかな黒髪。淡い桜色を湛えた唇に、透き通るような柔肌。出るところは出て、締まるところは締まっている滑らかなプロポーション。
そんな女性の理想像を詰め込んだかのような容姿を持ち、大和撫子という言葉がまさに当てはまる、色白の美少女は――穏やかな面持ちで和士に一礼する。
「あの時の……」
「……はじめまして。では、ないかも知れませんけど……天坂結友という者です」
そう自己紹介する、彼女の黒い瞳は――か弱くも真摯に、少年の眼を見据えていた。その麗しい眼差しに、彼は思わず息を飲んでしまう。
(あの時は必死過ぎて気づかなかったけど……こ、こんな美少女だったのか)
そんな和士の胸中にはまるで気づかないまま、少女は静かに口を開く。だが、ドギマギしながら椅子に腰掛ける和士は冷静な対応ができずにいた。
(にしても、この娘の顔……どこかで……? 気のせいか……? いや、それよりも!)
「この辺りで天坂って言ったら、もしかして……」
「……はい。父は天坂総合病院の院長でありまして」
「そ、そうなんだ……」
(こんな美少女な上に、あの天坂総合病院の院長の娘って――どんだけハイスペックなんだよ……!)
一方。あの日以来一度も会っていないはずなのに、どこか既視感のある彼女の顔立ちに、小首を傾げてもいた。
だが、それも次に飛び出た情報にかき消されてしまう。天坂総合病院と言えば、都内最大の敷地と規模を誇る病院だ。そこの令嬢ともなれば、身なりの良さにも説明がつく。
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