暁 〜小説投稿サイト〜
呪われた喫茶店
呪われた喫茶店
[10/24]

[1] [9] 最後 最初
に腹ごしらえしないか? 学食でお握りを買って
くるよ。具はなんでもいいだろう?」
学食の馴染みのオバチャンに、いつものように無理を言った。本来のメニューにないお握りを
七つ作ってもらったのだ。新品の一万円札を手渡すと、祐樹は、バイバイをして足早に去った。
きっぷのいい「江戸っ子」気分を満喫したかったからだ。
すぐに、先程の場所に戻ったが、どこにも、木田の姿はなかった。
(変だなぁー。俺に思考実験とやらを頼んでいたのに……。トイレでも行ったのかな? 少し待と
う)
 三十分ほど経過したが、一向に木田は現れない。
彼は、不満に少し苛立って思わず心の中で、少しばかり毒づいた。
(何やっているんだ。俺を長い間、待たして……くそー)
それでも、イライラしながら待っていた。薄汚い白鳥に、お握りを少しだけお裾分けした。そして、残りのお握りを全部平らげてしまった。それにしても、白鳥の食欲には目を見張った。確か、担当のオジサンが定期的に餌場に好物を、補充しているのに……。白鳥達は、ピチャピチャと嫌悪に満ちた音を立てて、汚れた水と一緒飲み込んでいる。
(一緒に飲み込んだ水は、どう処理するのだろうか? 家に帰ってから、PCで調べる価値は充分ありそうだ)
一向に姿を見せない木田を無視して、四時限目にある、祐樹が専攻している『経済学説史』の専門ゼミに出席した。講義終了すると、寄り道をせず真っ直ぐ明石市の自宅へ帰った。
翌日の日経新聞を読んでいた時だ。心臓が口から飛び出るほど驚愕≪きょうがく≫した。
同時に眩暈≪めまい≫が、祐樹に襲いかかった。

今まさに日が変わろうとする十一時五十九分。
木田は、大阪市福島区の自宅マンションから、飛び降り自殺をしていた。日経新聞を読んだ瞬間、祐樹は、錐で頭頂部を掻き回されたような、熾烈≪しれつ≫な痛みを憶えた。
木田の飛び降りた数分後の映像が、脳裏に再現された。それは、なんとも酷い死に様だった。駐車場の車に最初に激突したらしく、後頭部がバラバラに砕けていた。顔面は、腸が飛び出した胴体にめり込んでおり、手足は壊れた人形のように、バラバラの方向を向いていた。白い車のボンネッタに飛び散った大腸は、まだ蠕動運動≪ぜんどううんどう≫をしている。血液と脳漿≪のうしょう≫が噴き出して、周囲に流れ出している。車と車の狭い間に、飛び降りた反動で飛び出した両眼が、恨めしそうに宙を睨んでいる。それは、極めつけのオゾマシサだった。
ドッスンと大きな音がしたはずだ。しかし、どの部屋の明かりも、消えたままになっている。本人が一人で生活していたマンションも同じだ。多分、誰もまだ気付いていないようだ。祐樹が、こんな経験をしたのは初めてだ。
死亡した木田の強い想念が、祐樹に見せた数分,否、数秒の映像だったのだろう。

翌日は、友引だった。
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ