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呪われた喫茶店
呪われた喫茶店
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る喫茶店のドアーを開ける。ホール担当のおばちゃんに、百円の不味いコーヒーを注文した。祐樹は、モウモウとしている紫煙に目を薄めながら、友達を探し、数人に手を挙げ、簡単に挨拶をした。久しく話していない木田を見つけたからだ。椅子に黒のダンヒルのバッグを横に置き、ドカッと座った。いつものように、木田は、ハードカバーの哲学書に、夢中になっている。下駄顔≪げたがお≫には不釣り合いな、丸い黒縁のメガネをかけている。そのメガネにはまっているレンズは、牛乳瓶の底のようである。よほど、視力が悪いに、違いない。
木田は、まだ祐樹の存在に気づいていないようだ。大きな咳払いをすると、やっと気付き、不思議そうな顔で、祐樹を見た。
「俺が、妖怪に見えるのかい? そんなハトが豆鉄砲をくらったような顔をして。アハハハハ。
ところで、深刻な顔をして何を読んでいるんだい? また、『実存主義』関係の本なのか?」
一つ大欠伸≪おおあくび≫をしてから、木田は真面目な目をして語りだした。
「最近は、超心理学に没頭している。研究対象は、テレパシー、予知、透視などが含まれるES
P(extra−sensory perception)。それとサイコキネシス(念力)だよ。
臨死体験や体外離脱、前世記憶、心霊現象をも研究している。なかなか奥が深いよ! 残念だが、僕の頭脳と知識では、なかなか歯がたたないよ!」
「へーえ。哲学にドップリ浸かっていたお前が……なぁー。なにか心境の変化でもあったのかい?
それとも何かオゾマシイ体験でもしたのか? まぁー、人間は、常に変化を求める生き物だから
なぁ。それも、一つの真理だと俺も思うよ。……でもどうしてだい?」
問いに答える代りに、木田は気難しい顔をして外に出ようと、祐樹を誘った。不味いコーヒー
も半分しか口にしていないし、ダンヒルのタバコに、カルチェで火をつけたばかりだった。が、強い意志に従わざるをえない雰囲気に押された。仕方なく、祐樹は彼の後に付いて行った。
さほど広くない濁った池の前に、半分朽ちたベンチがある。そこに、二人仲良く腰を下ろした。祐樹は、木田の言葉を待っている。が、彼は、二十分ほど押し黙ったままだ。祐樹も彼にならい、地べたを、ぼんやり見ていた。一列に行進している二〜三ミリの大きさの蟻がいる。胸部から腹柄節にかけて、赤褐色をしている赤蟻達を眺めていた。
やっと、木田が重たい口を開いた。
「祐樹君は、霊が見えるんだろう? ぜひとも協力して欲しい思考実験があるんだ。頼む!一生
のお願いだ!」
(一生のお願いとは、大げさだ。よほど深刻な相談かなぁ!)
なぜか、木田は、恥ずかしそうな表情をしていて、彼の眼には自嘲と鬼気が宿っている。今だかつて、彼のこんな表情を見た記憶は、祐樹にはなかった。
「あぁー。いいよ。時間は早いけども、その前
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