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呪われた喫茶店
呪われた喫茶店
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、見たくもない霊達が見えるのにホトホト困り果てていた。彼と霊的周波数が一致して
いる場合のみだが……。霊は、実際に肉眼で彼に見えるか、あるいは、頭の中に映像化されるかだ。
常に霊の存在を感じていれば、誰でも精神に異常をきたすだろう。皮の拘束服で自由を奪われ、
劣悪な待遇の【精神病院】という名の【監獄の囚人】になる。そんな悲壮さは、浅田の考え過ぎ
だろうか? 佐藤は、常に繰り返し自問自答をしていた。
彼は、【霊の存在】を素直に認めるか、単なる錯覚にしか過ぎないのか、常に心中で葛藤≪かっとう≫していた。

佐藤は、まだ霊に会うのだ。
なだらかで湾曲した薄暗い坂を登り詰めた辺りだ。佐藤は、やはり今日も出会ってしまった。
長く伸ばした白い髭≪ひげ≫を、しごいている奇妙で不可解な老人と……。彼は、いつも杖に自分の体重を半分以上載せている。突然変異で生まれた孟宗竹は、下部の節の間が交互に膨れている。亀甲状になった、仙人が愛用していそうな杖と体とを一直線にして、空を指し大声で喚いている。両目をカーと見開き、口の端からよだれを流している。
老人が現れると、突然、辺り一面、非日常的な空気に満たされ、太陽が消滅し漆黒の地獄に変貌する。
佐藤は、老人に出会うと、まるで身体が棒になったように動かない。彼の脳に、映像が映り出し始める。緊張のあまり、固く握った両手に脂汗が出てくる。口中が干上がるので、ゴクリと生唾を飲み込む。背中から首筋にかけて氷の塊を押し付けられたように、全身ブルブルと音を立てて小刻みに震える。全身の毛が、総毛立つ。対象のない憤怒≪ふんぬ≫が、心の底から噴き上がってくる。生理的嫌悪感からか、全身に冷汗さえ出てくる。その老人の顔には、常に悪魔じみた笑みが貼りついているのだ。
いや――【悪魔そのもの】のようにも思える。
(僕の精神が、粉々に崩壊してしまったのだろうか? 次第、次第に自暴自棄的な気分になってく
る。誰でもいいから、僕をこの窮地から助け出して欲しい!)
 佐藤の精神は、バラバラに壊れそうだった。心に蓄積していた恐怖と苦悩が混沌となって、彼の全身を満たし始める。
その刹那、老人は漆黒の空に向かって、天地を揺るがすような大声で喚き出した。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……」 
空気を引き裂く雷鳴のようだ。佐藤は、素早く両手で耳を覆ったが、耳の中で寺の鐘を突かれているような、グワン、グワンと鳴り続けている。
老人は、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが、千八百九十年代終わりから千九百八十年代初めに描いた絵画「叫び」の男と全く同じように表情をしている。ムンクが描いた千八百九十年代に制作した「叫び」、「接吻」、「吸血鬼」、「マドンナ」、「灰」……など、彼の作品に共通するテーマは、「愛」「死」だ。そして愛と
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