暁 〜小説投稿サイト〜
呪われた喫茶店
呪われた喫茶店
[23/24]

[1] [9] 最後 最初
るのが親だろう。
そんな生き霊が、卓也の脳裏に浮かんだ。
敷金、家賃等の詳しい条件を聞くと、信じられないほど格安だった。卓也の母は乗り気になり、ぜひとも、中を見たいと言い出した。ところが、不動産屋の社長は仕事から逃げた。
「所用で今から、広島に出かけなければならないのです。すみませんが、留守番の妻に鍵を返し
て下さい」
そうダミ声で言った。彼は、慌てて型の古い四つ目のBMWに乗って出かけてしまった。
いずれにせよ、卓也は、件≪くだん≫の喫茶店へと向かった。ところが、駐車場のアスファルト所々めくれている。駐車場の奥には、ボロボロで錆びだらけの車が、放置してあった。ボンネットの先に、今にも外れそうな、ジャガーのマスコットが付いている。その車体からも、卓也は、強烈な怨念を感じる。その車には、半分枯れた蔦≪つた≫が、絡≪からん≫でいるのだった。
蛇が絡みつくようで、不気味だ。
卓也と真逆の性格で、霊感もなく底抜けに陽気な母が、卓也とともに地面より四段ある階段を上がる。ギギーと木製ドアーを開けた途端、生ごみの腐ったような臭いが、卓也の鼻をつく。ドアーの蝶番は、古びて錆ついていたのだ。卓也は、奇怪な冷気とカビ臭さで、階段で嘔吐してしまった。中に入った母は、卓也をせかした。
「素晴らしい内装だわ! あなたも来なさいよ。何をしているの。早く、早く」
母は、まるで子供のようにスキップし、あちこち探索している。渋々、後に入った卓也が見たものは……。
全ての席を埋め尽くしている、うな垂れた若い女性達。服も含め彼女達の全身は、薄黒い。椅
子、背もたれ、前にある埃が積もったテーブル、雑誌、飲み物、その他全てが、彼女達を透か
している。つまり、彼女達は霊になっているのだ。この世の人間ではない。
レジ台にいる従業員が、明るい声を出した。
「いらっしゃいませー」
声を揃えて、いらっしゃいませ、と言って、こちらを振り向く女性従業員達の顔は、ほとんど骸骨に近いほどに溶解している。
女性従業員達が着ている青い制服は、腐敗してボロボロになっていた。卓也と同じような年齢らしき男性が、一人だけいる。彼は、半袖の純白のカッターシャツに蝶ネクタイを締めている。マスターだろう。彼が、恨めしげな顔をして、カウンターでサイフォンコーヒーを立てている。
そのそばで、鴨居にロープをかけ、白い綿のような鼻水を、風になびかせている男女がいる。
充血した白眼を飛び出させ、口から泡を吐きながら足をバタつかせている、二十代と五十代の三人の自縛霊だ。おそらく、この店が経営不振に陥り、首つり自殺をしたのだろう。
母が、店内を探索している姿を、卓也は横目で見ていた。しかし、卓也は、真心を込めて両手を合わせ、微かに俯≪うつむ≫き、長い間、一心不乱心に祈っていた。
(自縛霊となったこの人々が、
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ