暁 〜小説投稿サイト〜
呪われた喫茶店
呪われた喫茶店
[22/24]

[1] [9] 最後 最初
され、多種多様の仕事に従事してきた。卓也は、卒業以来、まじめに今の居酒屋で働き続けている。が、何年経っても時給の上がることはなかった。アルバイトとして勤めている高校生や大学生の時給よりも安かったのだ。転職するにも勇気がなく、まして時給交渉のできる度胸もない卓也だった。お客様のオーダー通り、漫然≪まんぜん≫と天ぷらと様々な中華フライを揚げ、各種グラタンをレンジで温めている。夏には、自分が刻んだ葱≪ねぎ≫と、削りカツオを載せた冷や奴を、ガラスの皿に盛って出している。開ければ、湯気で火傷しそうな洗浄機の係りでもある。閉店すれば、ゴミを集めて所定の位置に出す。猫に荒らされないよう、ポリバケツにきっちり入れる。最後に、ホースで水を撒きながら、力を入れて床を毎日ボウズリで磨き上げるのだ。腰に下げている薄汚れたタオルで、何度も汗を拭いながら……。何しろ重労働は、彼に与えられた仕事であった。
人並み以下の容貌と変人のためか、合コン、コンパ、とは無縁だった。今でも彼女はいなくて、SF、推理小説が、彼の恋人だ。
卓也には、一つだけ人に誇れる(?)能力があった。それは、実生活に何の恩恵ももたらしはしない【霊感】である。子供の頃から、普通の人には見えない霊を感知できた。人の背後霊や、怨霊、生霊さえ見えたのだ。他人の未来も、稀には見える。だが、自分自身や近しい人は、修行を積まないと見えないらしい。が、あえて、そんな面倒なことを実行できる、根性も積極性も持ち合わせてないのだ。
卓也、そんな中途半端な人生しか、今まで歩んでこなかったのだ。
ところが、良い話が母の知り合いより舞い込んだ。こんな自分が、果たして、喫茶店の経営者になれるか非常に心細かった。が、一か八か、挑戦してみようと決意を固めたのだ。今までの自分とは違う意欲に満ち溢れる自信が、沸々≪ふつふつ≫と湧き出てくるのだ。そう、肌でじかに確信を実感した。母の方が乗り気であった。費用は全て用意するからと、背中を押しされた格好だ。半分仕方なく、母を乗せ、ボロ車を転がしたのである。
目的の神戸電鉄S駅近くの喫茶店に着き、車を止めた。その時に、彼は嫌な臭いと、全身に何ともおぞましい【怖さ】を感じた。これは、正しい霊感なのだろうか、自問自答した。だが、どうも真実の霊感のようだ。取りあえず、管理会社の口が歪みノッペリと顔が異常に長い、社長に会う事にした。彼は、四十歳代だろう、がその割に精気がない。どこかに、魂を置き忘れてきた感じだ。佐々木 卓也が、さらに詳しく彼を観察すると、後ろに、心配そうな顔をしている両親が見える。しきりに、彼に向って応援しているのだ。彼がうまく契約できるか、どうかを、心配している顔だ。大都市で、彼の父は大規模な不動産屋を営んでいる。次期社長には、弟にする考えだ。それほど彼に期待していないようだ。だが、我が子を心配す
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ