呪われた喫茶店
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だから、二日後の夜七時に、お通夜が執り行われることになった。
酷く嫌な予感に、祐樹は何となく躊躇≪ちゅうちょ≫していた。が、日頃から親しく付き合っている友人達の誘いを、断り切れなかった。気が進まなかったが、夜七時半、十九名とともに出かけた。マンションの真新しい集会所で、お通夜が執り行われるようだ。すでに、二十名〜三十名ほどが、片手に数珠を持ち、前に並んでいる人の背中を見て並んでいる。ご焼香の順番を待っているのだ。長い間待って、ようやく順番がきた。彼等は、木田の両親にお辞儀をし、お悔やみを一人ずつ言った。深々と挨拶をし、
「このたびは、木田くんが……」
と、末尾を小さな声で濁す。礼儀作法にのっとったやり方である。
彼等は、いままでそのような場を踏んでいないから、冠婚葬祭の本を、近くにある本屋で急きょ買い、回し読みした。こうして、最低限の知識を詰め込んだのである。焼香をするため、棺桶に収まった木田に、近づいたその時――祐樹は、アイスピックで脳天を何度も突き刺されるような、激甚な痛みに襲われた。脇からに友達が、倒れないように支えた。
「顔色が青白いぞ。祐樹大丈夫か? 横になって休ませてもらうように頼もうか?」
「あ。あぁー。ありがとう。一瞬、めまいに襲われただけだよ。今は何ともないよ。心配かけて悪かったなぁー」
「でもまだ、顔色がよくないぜ。……本当に大丈夫か? 無理するな!」
皆が、親身になって心配していた。「遠くの親戚より近くの他人」とは言いえて妙だ。
彼等は、木田に最後のお別れをしょうと、棺桶の子窓を開けた。死に化粧を施され、仰向けに寝かされた木田は、まるで、生きているような気がしたのは、一人だけではなかっただろう。
残念なことに、仲間の内、祐樹と木田にだけ霊感が備わっていた。祐樹だけが、木田の死後数分後の姿を見てしまったのだ。
葬儀社の人達が、組み立て季節の花を飾った祭壇は、かなりの価格だろう。彼の父親は若くして起業し、今ではCEOになっていた。従業員三百人以上が、勤務する将来有望視されているIT産業だ。すでに、ITバブルが崩壊していたのに……。可愛い一人息子の葬儀だから、たいした金額とは思っていないだろう。お通夜で、あまりにも両親が悲嘆していたので、全員がもらい泣きしたほどだ。それほど、両親には辛いできごとだったのだろう。初七日、四十九日には、彼等全員参拝した。しかし、「去る者は、日々に疎し」の諺通り、木田は彼等の記憶から薄れていった。「去る者は、日々に疎し」とは、死んだ者は日が経つにつれ世間から忘れられる、という意味だ。親しかった者も、遠ざかれば日に日に交情が薄れてしまう。
死に化粧を施され、棺桶に安置されている木田。だが、祐樹は見てしまったのだ。まるで、突き刺さるような粘っこい視線を背に感じ、上を見上げると、生前と変わら
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