友達の絆<全>
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親が、少し欠けている大きなドンブリ鉢に、なみなみと入れてくれた右手には、どこでも良く見かける大きな蛾が、四匹止まっていたが、私は無理に知らぬ顔をして,様々な色の雑炊をまるで餓鬼のように、ガツ、ガツ、ガツ、ガツと音を発てて、貪り食い、お代りを四度もお願いしたほど、相変わらず、素晴らしく美味な昔懐かしい味だ。
今まで、色々な店で、シェフ自慢の料理を味わい、妻が丹精を込めたにせよ、何時間もかけ、高級な食材をふんだんに使用して「あなた素晴らしい料理が出来たわ」と差しだされて「うん。最高の味だよ」と本心から褒めた料理でさえ、到底足元に追いつかない味だ。
ずっと下を向いてドンブリ鉢だけに集中していたため、食欲は満たされた。が、皆は、いまだにドンブリ鉢になみなみと雑炊を入れ、ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ、と四つに割れている真っ青な舌を器用に使い、箸を使わずに食べている。その光景を私は観察しながら、奇怪だと思わず、大いに感心をした。
私も、似たような食べ方をしていたのだろうか?
「地酒の美味しいのが、やっと手に入ったので、どうかご賞味して下さい」と言って、お父さんが、それぞれ模様が異なり、欠けてわずかに泥がついた湯呑をだしてきた。
そこで、我ら四人で早速宴会を催すことにした。
これもヒビだらけで、あちこち欠けている特大の器には、多くのミミズが美味しそうに蠢き回り、またもや涎がでた。昔話に花を咲かせているうち、肝臓機能が、最近、低下してきたのか、昔より酒が早く回り、私は睡魔に襲われた。
ぼんやりと話を聞きながら、記憶の底近くに埋没させていた、意識と無意識とが拮抗しあう場所に、ユラ、ユラ、ユラ、ユラと漂いながら揺れ動く、意識とも無意識とも判別できないある記憶の群れが、突然、脳裏で息を吹き返した。
そう、全く、突然に!
あれは、今から九年前の六月、既に記録的な大雨を約一週間、間断なく降らせ続けた梅雨前線に、台風本体の雨雲に含まれる太平洋上の湿気が、巨大な雨雲を発生させて雨台風となった。
地元では観測史上最高の一時間に百二十ミリを超す大雨を、止むことなく降った。
ほとんど台風の直撃を受けたことがない、この急峻な山に背を向けて寄り添うように纏って建っていた家々を、水を大量に含んだ山の土砂と木々が襲いかかった。
役場はじめ、自衛隊員、付近に住んでいる人々、他市からわざわざ駆けつけたボランティアの人達が、二次災害と闘いながら、懸命に重機、スコップなどを使って多量の土砂を取り除いたにもかかわらず、村民全員が遺体で収容されたのだ。
だとすると、この友を含む四人は、一体どうなっているのだろう?
微かに消えゆく記憶の世界で、四月二十九日、私達夫婦は、子供がいない気軽さから、ゴールデンウイークを利用して、阪神高速道路が混む前に、朝早く自宅マンションを例のジ
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