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フルメタル・アクションヒーローズ
第114話 最強のお守り
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……どこにも、ないんだ。

「……おしッ!」

 そう自分に言い聞かせるように、俺は両手で頬を叩き、気合いを入れる。

「ま、まさか……!? ダ、ダメよ龍太君ッ!」
「龍太、受ける気なん!? いけん、いけんよぉっ! いくらなんでも、これは危な過ぎるやろぉっ!」

 その様子から俺の意志を汲み取ったのか、救芽井と矢村が制止に掛かる。だが、瀧上さんがそうであるように、俺にも退く気はない。

 ――これは、言うなればチャンスだからだ。ここで俺が瀧上さんをブッ倒し、問答無用で完勝すりゃあ……救芽井エレクトロニクスや政府から、変に干渉されて事が荒立つ前に、この事件にカタを付けて四郷を解放させることができるかも知れない。恐らく、伊葉さんと所長さんもその望みがあると見たから、俺達に振ったのだろう。
 もちろん、事がそううまく運ぶとは限らないだろうし、あの瀧上さんに楽に勝てるだなんて、微塵も思えない。
 ……それでも、可能性が少しでもあるなら、ダメかどうか確かめてみるしかない。どの道、彼とは戦うことになるかもって考えはあったしな。

「一煉寺龍太……貴様、奴の挑戦を受けるつもりか」
「……あんたも反対?」
「まさか。貴様が倒れれば樋稟が悲しむだろうが……貴様が逃げれば、貴様を信じた梢が悲しむ。ならば、ワガハイの願いは一つだ。――受けて立つ以上、敗北は許さんぞ」

 一方、茂さんは救芽井や矢村とは違い、随分と落ち着いている。もしかしたら瀧上さんに頭を掴まれた時から、彼の恐ろしさの片鱗を既に感じていたのかも知れない。

「――厳しいこと言うねぇ、それでエール送ってるつもりかよ。……おかげで負けるに負けらんなくなってきたわ」

 俺はそんな茂さんの容赦なき応援に、背を向けたまま返事をする。その時、俺の隣に人影がスッと入ってきた。――久水だ。
 彼女は俺の右腕と、その手に嵌めた腕輪を優しく撫でると、無言のまま真剣な表情で強く頷いて見せた。いつもやかましいくらいだった彼女にしては珍しい、静かで淑やかな激励。そのギャップに戸惑う俺に微笑むと、彼女は踵を返して兄の傍へと引き返していく。

「良いのか? もっと言いたいことはあるだろう」
「……それはこの戦いが『無事に終わってから』いくらでもお話しできますわ。戦場(いくさば)へ赴く殿方に、言葉など無用。よき妻とは、殿方の帰りを信じ、家を守れる女のことを言いますのよ。――龍太様が受けるとおっしゃるなら、ワタクシは彼の勝利を信じ、待つだけざます」

 兄妹で、このような言葉が交わされていたことなど、知る由もなく。

 そして、そんな久水兄妹に感化されてか、救芽井と矢村もあまり反対の声を上げなくなって来ていた。その代わり、心配そうな表情で、二人とも上目遣いで俺を見つめている。


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