暁 〜小説投稿サイト〜
あの人の幸せは、苦い
5. 髪、切ってよ
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「……」
「……川内?」

 はじめてこの写真に気付いた時は、私が愛する人が、私とくっついて写っている写真を大切にしてくれていることが、とてもうれしかった。

 ……でも、今は違う。私たちと同じ時間を過ごした証を、私が愛していた人が、大切にしてくれている。そのことが、私にはうれしい。

「ハル?」
「ん?」

 ……うん。充分だ。私は充分、この人を吹っ切ることが出来た。

「ありがと!」
「おう。また来てくれな」
「うん! 今度は球磨がいる時に来るね」
「おう。でも夜戦は付き合わんからな」

 そう言って、ハルはケラケラと笑う。私は深呼吸し、目の前で楽しそうな笑顔を浮かべて勘違いしているハルに、笑顔でハッキリと宣言した。

「大丈夫だよ」
「?」
「もうハルを夜戦には誘わないから!」

………………
…………
……

 笑顔のハルからお釣りを受け取り、入り口のドアを開いて、私は外に出た。外は相変わらずの、気持ちいい晴天。若干暗い室内にいた私の目には、とてもまぶしい。私は右手で日差しを作り、眩しさから目を守った。

「川内」

 不意に声をかけられ、私は正面を見上げる。私の前にいたのは、いつもに比べ、若干顔が青ざめた隼鷹だ。

「? どしたの?」
「いや……あんたが、ハルの店に行ったって……いだだだ……提督から、聞いた……からさ……」
「心配して来てくれたの?」
「そうじゃないんだけど……ね……」

 そういって隼鷹は、たどたどしい口調で、頭を抱えながら私の問いに答えてくれる。最初私は、私のことを心配して顔色が悪いのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

「ひょっとして二日酔い?」
「まぁ……あんだけ飲めば、いくらあたしでも……ね」
「大丈夫?」
「あんたが言うか……いつつ……」

 そう言って苦虫を噛み潰したような渋い顔で、私を見つめる隼鷹。どうやら昨日の飲みは、隼鷹にとってもきつかったようだ。でも大丈夫。私の二日酔いもすぐ抜けた。きっと隼鷹の二日酔いもすぐ抜ける。理由は分からないが、そんな気がする。

「それで?」
「ん?」
「散髪はどうだった?」

 まだ二日酔いが抜け切ってないであろう隼鷹が、しんどそうに頭を抱え、私にそう問いかける。

 私は、空を見上げた。空は気持ちのいい青空。今の私の心のように、とても晴れ晴れとした青空。

 目を閉じる。私のまぶたをすり抜けるお日様の光はとてもまぶしい。ほっぺたを撫でる風は、心地よく、そしてひんやりと冷たい。

 私は前を向き、隼鷹の顔をしっかりと見つめ、そして笑顔で切り返した。

「うん大丈夫! ちゃんと踏ん切りはつけた!」
「……そっか。よかった」
「うん! 心配かけてごめ
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