5. 髪、切ってよ
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ハルに怒られて……それがね。とても楽しかったんだよ? ハルに笑いながら怒られることが楽しくて……でも夜戦が出来ないことがなんだか残念で胸がチクチクして……
それでもまたハルに会いたくて……ハルの怒った笑顔が見たくて、次の日の夜にまた、『やせーん!』て言いながら窓をガターンって開いて……
「あの……ハ」
「動くな」
ついハルに話しかけようとし、ハルがそれを制止する。有無を言わさないハルの迫力に、私はつい口をつぐむ。ハルの真摯な眼差しは、私の肌に当てられたカミソリの刃をジッと見つめてる。ハルの意識のすべては今、カミソリに注がれている。私を怪我させないように……私を傷つけてしまわないように。
「……ハイ終わり。お疲れ様」
「ありがと!」
「とはいってもお前、アイツと一緒で全っ然産毛が生えてないのな。すべすべだからびっくりした」
……少し、胸がチクリとした。
「……ん」
「ん?」
「ぁあ、なんでもない」
大丈夫。まだくっついてない傷が、ほんの少し疼いただけだから。
くっついてない傷は、絆創膏を上から貼っておけばいい。そうしていれば、いつの日か、傷はくっついて治っていく。
「んじゃ、またシャンプー台に行ってくれ」
「りょうかいしたよ!」
ハルに言われるままに、私は再度シャンプー台へと移動した。切った毛を洗い落とし、再び散髪台へと移動して、髪を乾かして……
「ほい終わり!」
「ほっ!」
すべてが終わった後、ハルは私の両肩をぽんと叩く。あの頃と変わらない、散髪の終わりを告げる優しいインパクトが、私の身体を心地よく駆け巡った。
そしてその心地いいインパクトは、同時に、私の恋の終わりを告げるインパクトでもある。
「ふぅ! ありがと!!」
「どういたしまして」
「さて、お代はおいくらですかー店長さん?」
「今日は毛先を整えてシャンプーして顔そりしただけだからな。四千円だな」
「はーい」
そんな軽口を叩きながら、私とハルはレジへと移動する。古めかしいタイプライターのようなレジを、ガシガシと打つハルの様子を伺いながら、私は、そこに飾られた一枚の写真を手に取った。
「……これ」
「んじゃお釣りが……ん?」
「懐かしいね」
「ぁあ、それな。懐かしいな。でも懐かしいって言っても、割りと最近なんだけどな」
写真には、球磨の隣にハルがいて、そのハルの隣に、満面の笑みを浮かべる私がいる。
『川内も押すなって……』
『えーだって写真に入り切らないじゃんっ』
『いやそうだけど……くっつきすぎだろっ』
あの時のハルとの会話は、まるで昨日のことのように思い出せる。好きな人に必死になってくっついて、好きな人の困ってる顔を見るのが楽しくて…
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