5. 髪、切ってよ
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「……」
「……」
ちょきちょきと心地いいリズムで、ハルのハサミが、私の髪の毛先を整えていく。時折ハルの指が私の髪をくいっとひっぱる、その刺激が心地いい。今、店内に響く音は、ハルのハサミの音だけだ。
「ねーハル」
「んー?」
「ちょっと、髪色を明るくしたいなーって思うんだけど」
なんとなく、私が『髪を染めたい』といったとき、ハルは止めるんじゃないか……そんな気がしてたけど。
「……どうしてもやるってんなら止めないけど、止めた方が良いと思うぞ」
「なんで?」
「川内の黒髪はすごくキレイだ。それを他の色に染めるって、すごくもったいない」
「ふーん……」
「それに、お前には黒髪がよく似合ってる。わざわざそれを捨ててまで、他の髪色にすることはないよ」
「そっかー……じゃあ止めたほうが良いね」
「そうしとけ。お前には黒髪が一番だ」
「うん」
ほら。ハルは、その人に一番合う髪が分かってる。それを相手に押し付けはしないけれど、やんわりと相手にそれを教えてくれる。
ひとしきりちょきちょきと毛先を整えた後は……
「ところでお前、顔そりはどうする?」
「ぁあ、鎮守府で球磨を実験台にしたやつ?」
「おう。あの時は妖怪アホ毛女の策略で正式サービスにはしなかったんだけどな。今は晴れて正式サービスになった」
「んじゃ、やってみる」
「りょーかい。つるっつるのすべすべお肌にしてやる」
こんな感じで、初体験の顔そりもやってくれた。
「せっかくだから、その時球磨にやった顔そりと同じようにやってみて」
「まじかー……」
そう言って苦笑いを浮かべながら、ハルは店の奥で顔そり用のクリームを作り始めた。熱いスチームの音が勢い良く『ぶしゅー』と店内に鳴り響いた時は、何事かとびっくりしたー……。
「んじゃ、顔にクリーム塗ってくぞー」
「はーい」
そう言ったハルに熱々のクリームを顔に塗られていった時、その心地よさに私は昇天しそうになった。そうしてクリームの感触と熱さをひとしきり堪能したあとは、ハルがカミソリでクリームをこそげ取っていく。
「……」
「……」
私は、私の顔に塗られたクリームをカミソリでこそげとっていく、真剣な眼差しのハルの顔を、ジッと見ていた。
「……」
「……」
カミソリのサリサリとした感触は、とても心地良い。そのカミソリを動かすときのハルの顔は、誰よりもカッコよくて、今でさえ、見ていて呆けてしまうほどだ。
……ねえハル? 気付いてた?
私ね。あの時からずっと、ハルのことが好きだったんだよ? あなたのことが、誰よりも何よりも、好きだったんだよ?
夜になったらハルのお店に行って、『やせーん!』て叫びながら窓を開けて、そのたびに
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