5. 髪、切ってよ
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ょもらんま鎮守府“だクマ”』の前まで来た私。窓ガラス越しに、店内の様子を注意深く伺う。店内は、掃き掃除をしているハル一人……今なら、誰にも邪魔されず、私はハルに、髪を切ってもらえる。
「……よし」
空を見上げた。二日酔いの頭にドギつい一撃を見舞ったお日様は、今も気持ちよさそうに輝いて、私のことを元気づける。
意を決し、私は入り口の取っ手を握って、ドアを勢い良く開いた。
「やっほー! ハル!!」
「ぉお!? 川内!?」
突然の私の来訪にびっくりしたのか……はたまた他に理由があるのか、ハルは掃き掃除の手を止め、素っ頓狂な声を上げて驚いていた。
「突然なんだよ!? 来るなんて聞いてなかったから驚くだろ!?」
「まぁーいいじゃんいいじゃん! それよりさ! 髪切ってよハル!!」
「ほんっと、お前って鎮守府にいた頃から変わんないなぁ……」
ハルはぶつくさと文句を言いながらも、手に持っていたほうきを片付け、私を散髪代に案内してくれた。私をソファに座らせ、自分はキャスターのついた椅子に座り、私の髪に背後から触れる。
「相っ変わらずお前、きれいな黒髪してるなー」
「そかな?」
「おう。鎮守府にいた頃から、お前ってキレイな黒髪してるなーってずっと思ってた」
「そっか。ありがと! だったらお礼に……」
「夜戦なら付き合わんぞ」
「ちぇー」
……大丈夫だよ。もう、『夜戦に付き合って』なんて、言わないから。
ひとしきり髪を見てくれた後は、シャンプー台に移動して、髪をシャンプーしてくれる。ちょっと熱めのシャワーの温度が心地良い。
「シャワーの温度はどうだー?」
「ちょうどいいよー。きもちい」
「だろ? お前ってちょっと熱めが好きだもんな」
「うん」
「そう思って、お前の時は前からちょっと熱めにしてるんだ」
「そっかー」
「おう」
「逆に暁ちゃんの時はぬるめとかな。覚えてる限り、出来るだけ温度をその人に合わせてるんだ」
「ふーん……」
「……ま、床屋としての、俺なりの矜持ってやつかな」
知らなかった。お客さんに合わせて、ハルは温度を調節してたのか。
ハルは、見えないところで人を気遣う優しい人だ。眠りに落ちていく加古の頭に枕を滑り込ませたり、球磨の耳掃除をする時はそのまま球磨が寝ちゃってもいいようにこっそりポールサイン止めたり……そんなところに、私は惹かれたのかもしれない。
「かゆいところはないかー?」
……懐かしい。あの頃を思い出した。そして思い出した途端、右足の裏がムズムズしはじめる。
「右足の裏の……」
「却下だッ!!」
そんなお決まりのやりとりが終わった後は、濡れた髪のまま散髪代へと戻り、ハルに髪を切って、整えてもらう。
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