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あの人の幸せは、苦い
5. 髪、切ってよ
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ないぐらい、とても美味しいものだった。

 そのまましばらく提督の店で休ませてもらったが、隼鷹はまだ目覚めない。『こらぁ今日は臨時休業かな?』と笑いながら話す提督。その提督が、今日のハルのことを教えてくれた。

「そうなの? ハル、お店にいるの?」
「ああ。新婚旅行には行くらしいが、今日は球磨と北上が用事があるらしくてな。ハルは今日、一人で店番やってるそうだ」
「そっか」
「踏ん切りがついたのなら、会うのは早い方が良いかもしれん」
「……?」
「時間が空けば、気まずくなる。隼鷹のおかげで踏ん切りがついたのなら、早いうちに顔を合わせた方が、後々気まずくないと思うぞ」

 ゆっくりと言葉を選びながら話す提督の言葉に、私の心は決まった。今日これから、私は一人で、ハルの店に行く。そして髪を切ってもらって、踏ん切りをつける。

 カップの中のコーヒーをすべて飲み干し、私は立ち上がった。

「提督! 私、これからハルの店に行ってくる!」
「一人で大丈夫か? 隼鷹が起きるまで、待っててもいいぞ?」
「大丈夫っ」

 覚悟は決めたから。今の私は、あとは踏ん切りをつけるだけだから。

「だから提督! 行ってくる!!」
「分かった。……でも、一旦家に帰って着替えた方がいいぞ?」
「? なんで?」
「自分の格好を考えてみろって……昨日のドレスのままだろ……?」

 ……ぁあ、そういえば。これは普段着に着替えたほうがいい。靴だってパンプスよりも、いつものスニーカーやデッキシューズの方が歩きやすいし。


 提督の助言? アドバイス? を素直に聞き、私は一度自分の部屋に戻って、顔を洗い、服を真っ赤なパーカーとタータンチェックのスカートに着替えた。乱れた髪にブラシを通し、キレイに整えてから、姿見の前に立つ。

「……」

 昨日、北上の店にいた、ひどい顔をした自分はどこにもいない。いつもどおりの、夜戦が大好きで賑やかな私が、姿見の向こうに立っていた。

――姉さん やっぱり姉さんは、その色が似合う

 ありがと神通。私も、自分には赤が一番似合うと思うよ。

――今日の川内ちゃんは、那珂ちゃんの次ぐらいに輝いてるよっ☆

 そだね。今の私なら、那珂より輝いてる自信がある。そうじゃないと、ハルの店には行けないね。

――ぇえ!? 那珂ちゃんより輝いてるってありえないッ!!

 聞こえるはずのない那珂からの苦情をすべて聞き流し、私は玄関でコンバースのスニーカーを履いて、ドアをバタンと閉じた。足取りも軽快。やっぱりパンプスよりは、スニーカーの方が動きやすい。二日酔いももうスッキリ抜けた。私はスタスタと心地よいリズムで歩を進め、ハルの床屋へと向かった。


 軽快な足取りでハルの新しいお店『バーバーち
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