『忘れ去られた人々編』
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
西の草原――その名の通り村の中心にある噴水広場から西へ半日かけて行った所にある切りだった丘の上にある小さな草原であり、村の周囲で唯一残っている牧草地である。サンサンと輝く太陽の光を直接浴びる事の出来る唯一の場所であり、火傷して痛い程に浴びる事が出来るでもある。
そのため自称日の光に弱い系である、ヤッカルは何かと理由を付けては放牧の仕事をさぼり、ルシアに押し付けては酒場に入り浸り酒を飲む毎日を送っている。
「こんにちは、ヨッカルおじさん」
「んあー?」
木で作られたフェンスの前に立つ巨漢の男に声をかければ、振り返るのは怠け者と同じ顔。
「なんでー、お前さんがいるんだー?」
「ヤッカルおじさんに頼まれて」
「まーた、あの野郎仕事さぼりやがったなー」
男が地団駄を踏むたびに着ているオーバーオールの紐が悲鳴をあげる。
「兄貴の野郎、後で覚えとれよー」
この巨漢の男は東の畑に居た怠け者の弟にあたる。真ん中にあともう一人挟んだ、同じ顔の三人兄弟。仲は良好でこうな風に本人のいない所で影口を叩く仲だ。
仕事の手伝いをお願いしたら、さぼられたり、仕事していないのにも拘わらず酒場で大騒ぎと、本当に仲の良い兄弟である。
プギー。
男が地団駄を踏んでいる様を苦笑いで見守っていると、聞きなれた動物の声がした。
「今日もプウサギたちは元気ですね」
「そーだろ?」
木のフェンスで囲われた牧草地の中にいるのは村にいる唯一の家畜たち。
プギー。
豚のようなピンク色の鼻、肥え太った巨体、くるりとした小さな尻尾、それらは一見すると豚のように見えるが、兎のようなぴんっと真っ直ぐ伸びた耳、赤いくりりとした目、前歯が発達した出っ歯、アンゴラウサギを思わせるようなふわもこな体毛、それらはまるで兎のようにも見える。
豚と兎のどちらでもあり、そのどちらでもない、両者の姿を併せ持つ新種の生物、その名は"プウサギ"
彼らのふさふさな体毛を刈り取ることをメインとした家畜またはペットとして飼われていたプウサギだったが、昨今の食糧不足問題により最近では食糧としても重宝されるようになり、その絶対数を減らしつつあるらしい……。
「んあー、兄貴のことはいつもの事だからほっとこうぜー。
今日はやってもらい事が沢山あるんだからなー」
「はーい。よろしくお願いします!」
元気よく遠くにまで聞こえる声で返事をすると、軽々と木のフェンスを飛び越え、プウサギ小屋へと歩いてゆく男の背を追って走り出した。
†
日没。日が沈み夜の闇が支配する時間。村に電気などハイテクなものは通っていない。いや違う、そん
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ