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広報官トーゴー ───最後の卒業生───
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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ルか仮名でいい。写真は修正を入れさせよう……って冗談だよ、冗談」
 と言いつつも珍しくもヤンの目がつり上がるまでトーゴーは本気だった。
「残念だなあ。エル・ファシルの英雄との集団見合い、企画として悪くないのに」
「これ以上さらし者にするつもりですか」
「だから、見合いだと言っているじゃないか。たまに開催している。評判いいぞ。ハイネセン以外で、はっきり言うとやや辺境地域ではあるんだが」
「広報は結婚相談所まがいのことまで?」
「何でもやるさ。軍のイメージアップと勧誘の為ならば」
 もともとは開拓惑星移住者向けだったが、トーゴーは別の部分に目をつけた。
 大きな産業のない地方であっても軍人ならば安定した収入がある。異動はあるが住まいの心配はいらない。最低限の生活ができる住居が軍人には提供される。もし基地しかないような場所なら単身赴任、残った家族の生活が困らない額の手当が支給される。戦闘に限らず任務中の疾病は無償で治療できる───男女問わず結婚相手として悪い条件ではない。
 トーゴーはこれを逆に利用した。
 結婚相手に軍人を、ではなく、軍人になれば結婚しやすい、独身者も生活には困らない、衣食住は軍が面倒をみてくれる。どれも広報としては今更な募集時の文言であるが、これまではそれを人口の多い場所でおこなっていた。
 これまでは下手な鉄砲も数撃てばとばかりに大都市で説明会を開いていたが、広い会場に集まる人員はまばらだった。
 それをトーゴーは手間はかかるが地方に狙いをつけた。
 町の小さな会場は、より高給の貰える職場を求める若者で溢れた。用意した資料が足りず現地職員が慌てるほどだった。
 軍人は甘い美味しい仕事ではない。訓練は厳しく、なんのコネもツテもない地方出身者の多くは前線に送られる。艦隊戦が主であるから戦死率も高い。
 以前は儀礼的に戦死報告と二階級特進が伝えられるだけだったが、ハイネセンから遠い者ほどトーゴーは軍から人を向かわせた。自身が勧誘した地域であれば時間が許す限りトーゴーが花を持って訪問した。遺影に手をあわせ、今も同盟領が自治を保てるのは尊い犠牲があったからだと遺族に頭をさげ、恩給の説明や手続きまで面倒をみることによって、それまで多かった「勧誘の時には美味しい話だけして息子や娘をさらっていく」悪評を減少させた。
 末端の兵士の死に様など誰も知らないし伝える者もいないが、トーゴーはその時の階級、乗っていた艦、戦況からそれらしい最期を想像して遺族に語った。
「さて、そろそろ着く。なかなか美味い弁当だったな」
「よく食べられますね」
「値段の分、揺れは少ないはずだが」
 ヤンの階級では乗れない地上車の中で、トーゴーは食事はもちろん、書類を書き、あちこちに電話をかけ、テレビ用にスタイリストの役割までこなしている。
 予定
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