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広報官トーゴー ───最後の卒業生───
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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がどんなに立派な演説をぶったところで、結局は前線に出ていない男の話だ。後方の安全地帯からいくら国防を説いても限界がある。
 昔は君主も前線に出て命を晒した。さすがに先頭に立って突撃はしなかったが、文字通り命をかけたものだ。だから一言一言に魂が宿っていた。戦意高揚には必須だった。
 まあ、その意味だと今の国防委員長は使える。演説も上手いし、女性受けする外見だしな。
 だが生きて後方にいる、今後も前線に立つことのない男の演説だと思えばば、空々しい文言にしか聞こえないだろうよ。
 しかし幼子を抱えた母親の言葉ならどうだ? 一人息子を失った親の言葉を白々しいと思うものはいないだろう。
 わざわざ礼服は着たし、正直に言えば雨の予報は天の助けだと思った。
 役者が演出として土下座をして何に傷つく? 俺のやったことはそれと同じだ。演出は俺、スタートもカットも俺が出した。カメラこそ回ってはいないが、最高の絵が撮れた」
 トーゴーの言葉には淀みがない。満足そうな笑みさえ浮かべている。
「あの……大佐は」
 その先を察してトーゴーはにやりとした。
「ああ、前線にも出ず、後方支援をしているわけでもない俺がどうやって大佐になったと思っているんだ。今回もあいつが壇上で委員長と握手でもしてくれたら昇進間違いなしだったろうが」
「ダメでしたか」
「ああ……出世はもう十分にしているし、名誉欲もないヤツだからな。他のヤツなら俺だってもう少し粘ったんだが」
 普通なら国防委員長と一緒にステージに立つことは栄誉で、断る者がいるなどトーゴーは考えたことがなかった。軍に対してもアピールができる。
 しかしヤンは昇進の可能性についても、これ以上偉くなってどうする、と取り付く島がなかった。負け戦だからこその英雄の必要性を訴えてもヤンの答えは変わらなかった。
 最初はここが腕の見せ所だと考えていたが、エル・ファシルの時にヤンが自分のやり方をよく思っていなかったことを思い出した。もちろんあの時とは状況が違う。リンチの立場にあたる者はいない。
「とにかく今は一分一秒が惜しい。ああ、電話か」
 それは広報室としては公開されていない番号にかかってきたもので、トーゴー以外には取り次がれないことになっている。
「あの話か。あれは無くなった」
「…………」
「疲れが取れないので壇上は勘弁して欲しいんだと。仕方がない」
「…………」
「ああ、もちろん、必ず参列はさせる。今回はうちもそれでいい」
「…………」
「いいか、余計なことはするな。通報を誰が止めていると思っているんだ」
 通話はほぼトーゴーの一方的な会話で終わった。舌打ちする様子を、少し離れてブラウンは見ている。
「遺族への質問状が届いています」
 事前に遺族に見せておくにしても、ある程度吟味しておく必要がある
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