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広報官トーゴー ───最後の卒業生───
広報官トーゴー ───最後の卒業生───
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ではまだ誰も知らないはずだった。自分たちも慰霊祭の知らせと一緒に聞かされ、半信半疑でやってきたのだ。
「先日はお電話で失礼いたしました」
 トーゴーは傘を背後へ投げおいて深く腰を折った。
「……もしや……あなたは」
「はい、トーゴーと申します。今一度お願いにあがりました」
 一昨日、電話口でトーゴーは母親の話を二時間近く聞かせられた。
 結婚して八年目にようやく一人息子が生まれ、小さな頃は病気がちで大変だったことに始まり、それから後のことも細々と、結婚して孫が生まれ、息子は我が子をまだ二度しか抱いていないこと、トーゴーは相づちを打ちながら熱心に聞き入った。
 しかし慰霊祭とインタビューの話をすると母親は半狂乱になった。
 電話を代わった父親は無礼を謝ったが、慰霊祭についてのはっきりした返答はなかった。
 ハイネセンまでは来る、トーゴーは確信した。
 妻の恨み言を二時間聞いていたことを知っている。望みはある。
「どうか、お願いします」
 雨に打たれ続けているトーゴーの髪の先から滴が落ち、ぬかるみ始めたそこに膝をついた。
「やめてください、そんなことをされても───!」
 傘を捨てたトーゴーが濡れていくことも気にはかかっていたが、額までも地面につけるのを見て父親は息を飲んだ。トーゴーがおいた花を引き千切っていた母親も動きを止める。
「どうか……お願いします」
 礼服の背中は雨で完全に色が変わり、スラックスも泥水を吸い、それでもトーゴーは嘆願を続けた。
「……わかりました」
 根負けした父親が静かに言い、妻の手から花束の残骸を取り戻すと再び息子の墓へ供える。
「ありがとうございます」 
 頭をあげるように言われても、トーゴーは少し顔をあげただけで膝と手は地面についたままだった。そのまま夫婦が墓地から去るまで見送る。
 完全に立ち去ったのを確認して、少し離れた場所にいた部下のブラウンがタオルを持って駆け寄ってきた。その気配にトーゴーも立ち上がり、投げ捨てていた傘を拾う。
「噂に聞いていましたが、初めて見ました」
「そうか?」
 額の泥を拭きながら平然としている。
「あーあ、こいつは下着までいったな」
 礼服はぐしょぐしょになっていた。白いだけに泥染みも目立つ。
「まあいい」
 着替えが車に乗せてあるので、トーゴーは顔と頭だけを拭き、思い出したように手の平も拭った。
 乗ってきた地上車は目立たないように墓地の入り口から離れた場所に止めてある。大きな車が遺族の目に入らないよう、用心に用心を重ねてあった。
 シートが汚れることなど気にせず素早く車に乗り込んだ。車中で上着とシャツを脱ぎ、ざっと拭いてから乾いたシャツを着込む。いくら広い車種であっても立てるほどではないが、トーゴーはスラックスも履き替えた。
「急ぎで
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